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コラム
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「メンタルヘルス in キャンパス」 片桐 由喜
(掲載日 2007.02.20)
  この数年来、うつ病や認知症など精神疾患に苦しむ患者やその家族に関する報道や記事がマスコミに多く登場するようになった。患者数が増加したので、あるいは以前から存在したものが顕在化してきたゆえか、いずれにせよその苦悩が可視的になってきたせいなのだろう。そして精神疾患が、時に身体的疾病よりもことを深刻にするのは、本人に病識がないこと、家族にも様々な影響を及ぼすこと、病気に対する世間の理解を得がたいこと、などがあるためである。

 大学もこの問題から無縁ではない。すなわち、ひきこもりやうつ病で登校できない学生がいることがあちこちの大学で報告されている。また大学時代は統合失調症の好発年齢でもある。もちろん、このような状況は高校生までの間にも、あるいは社会人となってからも現れる。しかし、大学生時代に発症することには、それ以外の時代とは違う様々な問題がある。

 一つは、大学当局がそのような病気にかかった学生を把握することが困難なことである。大学は高校時代までと違って、すべての授業で出席を取らない。出席を取ったとしても、欠席した学生に問い合わせて「なぜ、今日は授業に出なかったのか」と聞くことはまずない。いわゆる生活指導ともいうべき学生の個人的生活への介入が大学にはないのである。

 これが高校生以下の場合、無断欠席をすれば担任教師から保護者へ安否確認などが間違いなく行われるはずである。あるいは会社員であれば同僚や上司が出社してこないのを不審に思い、また言動が変調をきたしていれば何らかの対応を取るであろう。

 しかし、大学は学生が授業に出てこなくても積極的な関与がなく、その結果、何らかの精神疾患のために登校できないまま単位を取れず、結局は除籍となるという事態も起こりうるのである。これが大学時代に特徴的な問題点である。

 もうひとつは、大学時代に罹患し、そのまま放置してしまうと社会生活への順調なスタートが切れなくなる恐れが大きいということである。大学は学生が社会へ出てゆくための橋渡しの役割を果たす。現在、学生たちは大学3年生の後期頃から就職活動を始める。公務員志望の学生はもっと早い時期から試験勉強の準備をする。学生たちは、就職活動をしながら試験を受けて単位をとっていかなければならない。

 それがうつ病などのために登校できない、勉強できない状況では面接を中心とする就職活動に参加できないことはもちろん、学内の試験に合格し単位取得することは難しい。そうなると留年したり、かろうじて卒業したとしても就職先が決まっておらず、今、問題となっているニートになる可能性が小さくない。大学を卒業、就職して社会人となるのは人生の中でも非常に重要な節目である。ここでスムーズなスタートが切れないと、その後の生活に少なからぬ影響を及ぼすことになるのである。

 しかも日本社会は、再チャレンジが難しい。大学を除籍された、中退した、卒後、直ちに就職しないで家にいたと言う若年者が立ち直り一念発起して、多くが行きたいと思うような企業を志望したとしても、そこから内定をもらうことは至難の業である。折りしも現政権は再チャレンジが可能な日本社会を作ろうといろいろ策を考えているようである。実効性のある政策を期待するばかりである。

 現在、どの大学もこの問題の重要性を認識し、学内に相談室やカウンセラーを設置している。本学も学外からのカウンセラーが週2回、午後から学生の相談などにのっている。また履修指導教員制度の創設、単位不足学生の呼び出しなど、一昔前には考えられなかったような学生対応が行われている。これを学生サービスと呼ぶか、過干渉と称するかは評価の分かれるところであろう。

 かくしてメンタルヘルスは、いまや職場だけではなくキャンパス内においても取り組むことが求められる課題となった。卒業式に晴れやかに巣立っていく学生たちを見ると、やはりこの道筋にどの学生も立ってほしいと思う。そのためには、やはり時代の流れに逆らわず、学生に対しより一歩踏み込んだ関わりが必要なのだろうと思う。
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