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(掲載日 2007.03.06) |
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■「天下り先」は確保された
中小企業のサラリーマンの多くは、政府管掌健康保険(以下、政管健保)に加入している。政管健保は、厚生保険特別会計健康勘定で経理され、社会保険庁が運営するが、2008年10月に新たな公法人に移管される。「全国健康保険協会」(以下、協会)が運営し、徴収は「ねんきん事業機構」が行う。都道府県ごとに支部もできる。天下り先の看板がすげかえられるだけと思うのは私だけではないだろう。(当然であるが、看板のすげかえにかかるコストは小さくない。)
協会本部の代表的な天下りポストは8人分(理事長1人、理事5人以内、監事2人)。厚生労働大臣の承認があれば、株式会社の役員にもなれるし、起業することもできる。また学識経験者からなる運営委員9人を任命するとあるが、政管健保の学識経験者なんて官僚ぐらいのもの。まさに官僚第二の人生の大きな受け皿組織である。
■水面下で押し付けられつつある借金
さて、この天下り組織、すんなり設立させて良いのだろうか。
政管健保(厚生保険特別会計健康勘定)には2005年度末で1兆4,792億円の借金がある。1973年度末までの累積赤字と1984年に廃止された旧日雇保険事業の累積赤字のための借金だ。この借金、国の一般会計が返済することになっているが、一般会計も苦しいとして、一向に実現されていない。
借金は、今後どうなるのか。国の一般会計の2007年度予算には返済計画はない。2008年度に社会保障費を一気に削って払って実行するのか。
そら恐ろしい事実がある。厚生労働省の資料(注1) には、次のように記載されている。
「政府管掌健康保険の資産・負債は、厚生保険特別会計健康勘定で経理されており、同勘定の資産・負債については、政令で定めるものを除き、全国健康保険協会に承継。」
さらに昨年(2006年)10月に施行された改正健康保険法第7条31には、協会が「短期借入金をすることができる」と定められている。
つまり、政管健保の1.5兆円近くの借金は、かなりの根性を入れて政令を定めない限り、協会に引き継がれる。協会は短期借入をする。協会は返済のため、保険料を狙う。国の一般会計が返済するという約束は反故にされる。
ややこしいのは一般会計が返済するというのが、法令ではなく、口約束である点だ (注2)。だからといって約束を翻して良い理由はない。国の借金が新たな保険者に引き渡されないよう厳重監視が必要だ。
■保険料で培われた資産までも投げ出す官僚
問題は、負債の承継におわらない。政管健保には資産もある。2005年度決算では、固定資産が4,221億円あり、このうち、社会保険病院の土地・建物が約3,500億円と言われている。
社会保険病院は、健康保険の保険料を財源に建てられてきた。その数53病院、うち全国社会保険社会保険協会連合会(以下、全社連。これも天下り組織だ)が49病院の運営を受託している(注3) 。
社会保険病院はどうなるのか。2006年度中に国(厚生労働省)が整理合理化計画を策定することとなっていたが、社会保険庁の不祥事で遅れている。というのは口実で、実は土壇場まで作る気がないのではないか。
理由その1.こっそり協会に引き継げば、そのうち償却されてなくなるし、全社連も土地・建物のタダ借りをつづけることができる。その2.移譲するにしても、協会設立直前に移譲を決めれば、時間切れで運営経験のある全社連ぐらいしか受け皿に手を挙げられない。ん?という落札価格で引きけることができるかもしれない。
かくして、私たちの血税(保険料なので税ではないが)は、一銭も保険財源に返ってこない。政管健保の保険料率は1,000分の82。2005年度の保険料収入は6兆667億円。社会保険病院が簿価どおりに売却され、ある1年に売却益がすべて保険に戻ってくれば、その年、保険料率は1,000分の78にまで下がるのだが。
(注1) |
「政府管掌健康保険の現状と公法人化に向けた取組について」第1回 全国健康保険協会設立委員会資料, 2006年11月 |
(注2) |
1984年8月4日、参議院社会労働委員会で、「日雇健保の累積赤字は、健康勘定で経理することとしているが、政管健保の収支とは明確に区分することとしており、政管健保の保険料で償還することは考えていない」と答弁されたのが、唯一のよりどころ。 |
(注3) |
全社連は、このほか3つの厚生年金病院の運営を受託している。 |
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