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コラム
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「政府税制調査会の新展開」 土居 丈朗
(掲載日 2007.03.20)
 政府税制調査会は、さらに議論を深めるために、3月9日に調査分析部会を新設した。特定の利害にとらわれない形で独自に調査分析を行う手足を持つことが、この部会の1つの重要な使命である。委員は、官僚がこしらえた資料を材料にして、単に会合のときだけ自らの見解を述べにやってくる状態を変えようという試みといえよう。その意味で、調査分析部会の今後の議論は、国民の要望を背景に、政府税制調査会の委員のオーダーメイドでこしらえてゆく体制で進められてゆくと思われる。

 これと合わせて、筆者は政府税制調査会の専門委員に任ぜられ、調査分析部会での議論にも加わることとなった。

 調査分析部会では、3つのテーマを取り上げる。それは、(1)経済社会の構造変化とそれが税制に与える影響の検証、(2)税制が経済及び社会構造・経済主体の諸行動に与える影響の検証、(3)今日的意味における租税原則、となっている。

 (1)経済社会の構造変化とそれが税制に与える影響の検証では、少子化・高齢化という人口構造の変動、グローバル化の進展などの経済社会構造の変化を受けて、それに税制がどう対応することが求められるか、ないしは税制でどのように対応できるか、といったテーマを取り上げる予定である。また、最近注目されている経済格差の問題に対しても、多面的な格差意識や政策による再分配効果の検証も分析の候補に上がっている。

 この(1)については、どちらかといえばマクロ経済の視点からの検証で、影響のベクトルが経済社会から税制への向きでどのようになっているかを、まずは事実を突き止めることから始めることとしている。

 (2)税制が経済及び社会構造・経済主体の諸行動に与える影響の検証では、税制改正と経済・財政への影響、経済活性化・成長力と各階層への影響、税制が経済主体の諸行動に与える影響などを取り上げて分析を進める予定にしている。具体的に検討すべきものは、所得税、法人税、消費税、相続税など様々な税目があるが、まずは金融所得課税と法人課税の論点について、より学術的な観点から議論することとしている。

 (3)今日的意味における租税原則では、これまでの我が国の税制改革の流れや、租税体系に関する諸外国の潮流について踏まえた上で、シャウプ税制改革勧告における租税原則を今日的に新たな視点で議論する予定である。租税原則の言葉遣いでも、従来から「公平・中立・簡素」と呼ばれているが、「公平・活力・簡素」と変えようという動きがあったり、アメリカのブッシュ政権の下で超党派の税制改革諮問委員会が出した最終報告書には、「簡素、公平、経済成長の促進」と打ち出したり、いろいろな考え方を背景に、今日的な動きが見られる。また、公平と公正という日本語が、税制改革論議では時折登場するが、これも論者によって含意が異なっている場合もあり、その点についての議論の整理も必要とされているところである。

 また、国税と地方税の租税原則についての整理も必要な時期にあります。特に、これからさらに地方分権を進める中で、地方税制を国の税制の中でどのように位置づけるかが課題となっている。その視点から、国と地方の税源配分の問題にも触れることになると思われる。

 このように、調査分析部会では、3つのテーマで領域を分けつつも、大いに相互乗り入れをして、まずは現実の考察を手始めに、結論を事前に定めることなく大いに議論するというスタンスで望むことになりそうだ。もちろん、本格的な税制改革論議は、今年秋以降との見通しではあるが、調査分析部会では、少なくとも現時点までに学術的に明らかにされている事実について、誤解のないように整理して、今後の議論の土俵作りをすることが、私は重要であると考える。

 当然ながら、税制に対する思いや要望は、それぞれの立場で様々に異なるものではあるが、単なる風評ではなく、客観的なデータの裏づけを持った事実が何であるかを、皆が共有できる形で議論ができるようにすることは、ほとんどの人は反対しないだろう。調査分析部会における調査や分析が、多くの国民が税制を考える上で役立つ材料を提供できるように、その一員として微力ながら貢献できれば、と筆者は思っている。

※ 本稿において、政府税制調査会の今後の見通しに言及した部分で、議事録や会長記者会見録に記載公表されたものでないところについては、筆者の個人的見解であって、政府税制調査会の見解を何ら代表するものではない。
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