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コラム
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「社会福祉施設改善の担い手」 片桐 由喜
(掲載日 2007.04.17)
 年金制度や老人ホームを初めとする社会福祉施設の必要性は、私たちのライフスタイルが大きく変化したことにより増大した。変化とは、すなわち、かつての「早婚・多子・短命」型人生から「晩婚(最近では「非婚」も併記するべきかも知れない)・少子・長命」型人生への移行を意味する。

 この変化は家族間の扶養機能を衰えさせ、その結果、社会の構成員全員で高齢者や障害者などの社会的弱者を支えていく仕組みが必要となったのである。これを「扶養の社会化」という。

 この仕組みの代表格が年金制度や社会福祉制度である。たとえば昔は子供たちが老親へ経済的支援をしていたが、現在はそれに代わり年金がその役割を果たす。同様に、以前は家庭で介護が行われていたが、今は家族がそれを引き受けることが困難な時代となった。そのため心身の不自由な家族の世話を第三者にゆだねる制度を作ってきたのである。

 現在、私たちは社会保障制度を通して、扶養や介護の負担を回避し、そのために犠牲となることから大きく解放されつつある。しかし他方でそれゆえのリスクも抱えるようになった。本稿ではとりわけ高齢者施設の利用により生じるいくつかの問題点を指摘し、両親あるいは将来、自分自身が信頼・安心して施設で過ごすにはどのような方策があるのかを検討したい。

 周知の通り、介護保険法施行後、高齢者福祉サービスは事業者と高齢者との契約により提供されるようになった。換言すれば、福祉サービスが商品となり、高齢者は消費者と言う側面も持つようになった。これは私たちがデパートにおいて買い物をするのと似た関係である。しかしながら、この両者の間には大きな違いがある。

 第一はデパートで買い物ができる者は、そこまで到達できる身体能力、買い物をするに必要な判断能力があるのに対し、施設の利用者は心身の機能が衰えているということ、第二はこれと関連して、商品やサービスに関する知識・情報の収集・分析能力が前者は豊富であるのに対し、後者は不足しがちであること、第三は、これらの帰結としてデパートでは「お客様は神様である」と評される一方、施設においては事業者・職員が力関係において利用者・入所者よりも優位に立つという、力関係に大きな違いが見られることである。

 立法者はこのような施設利用者・入所者の特性を理解して、彼らが施設内で人権侵害の被害を遭わないための規定や、不幸にしてそのような事態に遭遇した場合に、苦情を受け付ける制度を整備している。

 一般に施設入所者・利用者やその家族は不平不満を苦情として申し立てると、施設側から不利益をこうむるのではないかと恐れることが多い。幸いにも―不適切な施設側からすれば不幸にも―、最近は権利意識・人権感覚が向上し、不当な待遇には声をあげて改善を求める例が増えてきた。

 筆者が知る例では、デイサービス送迎バスの時間、食事の内容、職員からの暴言等、様々な苦情が施設内外に訴えられている。誠実な事業者は入所者・利用者からの苦情を施設改善の要と歓迎し、謙虚に傾聴、良い方向へ実践する。他方、心ない施設はその苦情を隠蔽、握りつぶし、申立人の排除などに及ぶ。

 したがって、信頼し安心できる施設というのは入所者や利用者からの苦情に迅速誠実に対応する意思と行動力のあるところということができる。もっとも、施設側がこのような行動を取るきっかけは、入所者等からの苦情の訴えに他ならない。すなわち、信頼と安心を確保確立するためには、入所者らや家族の常識的な権利意識と自らの勇気ある告発が不可欠であるといえよう。

 苦情などが起こらず、事業者や職員らが自発的に福祉サービスの質を改善・向上していくのであればなんら問題は起こらない。そのような施設も全国には少なくないであろう。しかし、一般的には、また、とりわけ株式会社など営利組織が社会福祉サービス提供の世界に参入してきたことに伴い、施設に対する苦情は年々増加傾向にある。

 これまで長い間、家族が担ってきた介護をサービスとして第三者から購入する時代となった。一朝一夕で合理的な契約関係を構築することが困難な分野でもある。サービスを提供する側も受ける側も施設改善の主体であるという認識を持つことがますます重要となると思われる。
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