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「『ボケない秘訣』とは〜物価下落の謎を解く〜」 長谷川 公敏
(掲載日 2007.07.03)
 先日、会社を休んで長期療養している友人と、会社の近くの喫茶店で久しぶりに話をした。

 友人は「年齢とともにだんだん物忘れがひどくなるが、ボケない秘訣は、何でも素直に納得しないで疑問を持つことだと、医者に言われた」といい、ついでに「君は大丈夫だよ」といっていた。

 仕事柄なのか、へそ曲がりなのか、筆者は報道の矛盾や不自然さが気になる。確かに、素直な人よりもボケるのは遅いかもしれない。

 これまでも、株式分割や増配は実は株主優遇ではない、デフレ下の経済実態は実質経済ではなく名目経済など、「このように言われているが、実は違う」という話をしてきた。

 今回は、日本銀行が説明に苦慮している「物価と経済成長の関係希薄化」について、考えてみたい。

 「関係希薄化」とは、簡単に言えば「景気が回復しているのに、物価(注1)が下がっている」ということで、利上げしたい日銀にとっては極めて厄介な問題だ。

■なぜ厄介な問題なのか?

 福井日銀総裁は、昨年3月に金融の「量的緩和解除」、7月に「ゼロ金利解除」という、いささか怨念が込められた言葉で金融政策を変更し、当時は「物価動向を金融政策の判断基準にする」旨、明言していた。(日銀は今年2月にも利上げを実施した)

 しかし、当時は前年比プラスで推移していた物価が、最近はマイナスに転じていることから利上げの根拠がなくなったため、日銀は「金融政策は経済の将来見通しを判断基準にする」と、判断基準を変更してしまった。

 ただ、「将来見通し:フォワード・ルッキング」とは日銀自身の見方であり、利上げのためにする見通しと言われかねないものだ。

 そのため、このような「物価がダメなら、フォワード・ルッキング」という基準変更に対しては批判が多く、日銀は変更理由の説明責任を果たさざるを得なくなった。その説明が「物価と経済成長の関係希薄化」だ。

 物価と経済成長の関係が希薄化し、景気が回復しても物価が下がっている理由として日銀が主張しているのは、概ね次の4点だ。

1. 経済のグローバリゼーションに伴い「需要の多極化」が進展している
2. 国内外の企業間で激しい競争が行われている
3. 消費者に近い企業の力が消費者から遠い企業の力よりも強くなった
4. 消費者物価の調査方法が陳腐化し真の価格が物価指数に反映していない

 これらの理由の中には「需要の多角化」など意味不明と思えるものがあるが、全体としては、「経済のグローバリゼーション(国際化)で企業の競争が激化しているので、消費者に有利(物価が上がりにくい)な状況になっている」ことと、「物価の調査方法が悪い」ということだ。

■説明には矛盾が

 細かな解説は割愛するが、日銀の説明を聞いてすぐに疑問に思うことがある。

 それは、「経済のグローバリゼーション」は世界共通の出来事で、世界中がインフレ(物価上昇)で悩んでいるのに、なぜ日本だけがデフレ(物価下落)なのか、ということだ。

 日銀の説明は、ゴルフのショートホールで3人は乗って自分ひとりだけ届かなかったときに、「風がアゲインストだったから」と言い訳するようなものだ。アゲインストの風は全員に等しく吹いており、自分が乗らなかったのは、クラブ選択も含めた個人の技量の問題だ。

 更に物価の調査方法が悪いなどという説明は、日銀が物価見通しを間違えた責任を他人(総務省)に擦り付けているに過ぎない。昨年3月は、その「不正確な物価」を根拠に、自信満々の金融政策転換をしたのではなかったか。

 このように、経済や物価に対する専門的な知識がなくても、常識を働かせれば「専門家」の話の矛盾に気がつくはずだ。「物価下落の謎」(注2)は解けなくても、心がけ次第でボケるのを遅らせることが出来るのではないか。

(注1)  この場合の物価とは、消費者物価・コアを指す。コアとは、消費者物価(総合)から、価格変動が激しい生鮮食料品を除いた物価。
(注2)  物価は、モノやサービスの需給で決まる。また、薄型テレビなど技術革新が進みコストが下がったり、原油などの原材料価格や人件費の上昇などでコストが上昇する場合でも、需給が物価に反映される。
 つまり、供給側のコストが下がっても需要が多ければ物価は上がるし、供給側のコストが上がっても需要が少なければ物価は下がる。
 「物価下落」は、日本では景気が回復しても、依然需要不足状態が解消していないということで、「謎」ではない。日銀は8月にも追加利上げをしそうだが、低血圧(デフレ)の患者に、降圧剤(インフレ抑制策=利上げ)を処方しても大丈夫なのだろうか?
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