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「骨抜きの骨太『基本方針2007』」 前田 由美子
(掲載日 2007.07.10)
■骨太でなくなった「骨太」

 2007年6月19日、「基本方針2007」が閣議決定された。正式名称を「経済財政改革の基本方針2007〜「美しい国」へのシナリオ〜」という。なんのことだ?と思われるかもしれない。

 昨年までは「骨太の方針」と呼ばれていた。昨年の正式名称は「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」。今年は「構造」改革が飛び、「方針」から「シナリオ」へ変更。「方針」は意思をもって進むべき方向、「シナリオ」は誰かに踊らされるものであってもシナリオだ。

 骨太が骨太でなくなったので、そのまま「基本方針2007」と呼ぶ。昨年と比べてみると、飛んだ(なくなった)ものがほかにもある。

  昨年は、社会保障費について、「過去5年間の改革(国の一般会計予算ベースで▲1.1兆円 ― 国・地方合わせて▲1.6兆円に相当 ― の伸びの抑制)を踏まえ、今後5年間においても改革努力を継続する」と記載された。今年は、具体的な金額は記されていない。

 大田大臣(内閣府特命担当大臣 ― 経済財政政策)は、「総理が『基本方針2006』(筆者注:昨年のもの。数字が明記されている)はしっかりと守っていくということをしっかりと何度も仰った」ので歳出削減はつづける、と言う。

 しかし、数字があるのとないのとでは大違いだ。しかも、子供じゃあるまいし安倍総理まで引き合いに出して、自信のなさがありありとうかがえる。「基本方針2007」に、「基本方針2006」のポイントが別表として添付されたが、大田大臣としてはこれが精一杯だったようだ。

■骨抜きプロセス

 「基本方針2007」の成立過程を追ってみよう。

 2007年5月28日、骨子案が発表された。まるっきり目次のみである。昨年は目次プラス総論6枚がついており、おおよその主張はこの時点で明らかであった。

 6月4日、素案が発表される。社会保障費の具体的な削減目標などの数字はない。6月12日、原案発表。素案に比べて次の書き込み(主なもののみ)が増える。

 ひとつは『歳入・歳出一体改革の実現』の節で、「それぞれの分野が抱える特殊事情や既に決まっている制度改革時期とも連動させ」という表現。どこかしらへの配慮がありありと出てきた。

 もうひとつは、『平成20年度予算の方向』の節で、「予算面において所要の対応を行うことを含め」という表現。予算において、いかようにでも対応しますよということか。だいぶ腰が低くなってきた。

 6月19日、最終稿発表、閣議決定。医療分野だけ見てみても、「素案」に比べて、おそろしく具体的な文言が書き込まれた。

 ひとつはレセプトオンライン請求について「請求システムの標準化、互換性等の環境整備を図りつつ」。

 もうひとつは医療従事者の間の役割分担の見直しについて、括弧書きで「(業務範囲、責任の所在等)」。

 医療機関に診療にいくらかかったかの明細書(レセプト)をオンラインで出せというが、これを強制されると、赤鬚診療所やDr.コトー診療所はギブアップだ。そういうところにも配慮すべし!という結末なのだが、逆にいうと、これまでいかに医療現場を知らない人が「基本方針」の鉛筆をなめてきたかがわかる。と同時に、この期に及んで具体的な修正が入るという点も興味深い。

 さて、現在、高齢者が長期入院できる施設の廃止、医師不足による診療科の閉鎖など、これまでの医療機関経営だけに厳しい制度改悪から、地域住民や患者が直接痛みをこうむる厳しい現状に直面している。こういう事態に配慮して、骨太の「骨」が抜かれたのか。そうともいえる。しかし、担当大臣の発言からは、現状の認識以前のことのようにも思える。

■「診療報酬」に反応しない(できない)大臣

 「基本方針2007」の記者会見で、大臣は、次のような質問を受けた。「今年の末は診療報酬改定の年に当たるわけで、当然、本来は今後の取り組みのところに書いてあってもしかるべき」と。

 大臣の答えは「ちょっと確認します」。何を確認するのだろうか。書いていない理由をだろうか。それとも「診療報酬」改定の時期をだろうか。訳あって狸芝居なら天晴れだが、診療報酬は国民的関心が高い。「ちょっと確認します」はないだろう。

 親分(総理)の談話はもっと振るっている。総理は「基本方針2007」閣議決定のあと、談話を発表した。そこで、喋った具体的な単語をあげてみよう。「中小企業」「金融・資本市場」「消費税」「年金記録問題」「官製談合事件」。総理の頭の中には「社会保障」の「社(しゃ)」の字もない。当り前過ぎて言い忘れたのか???

 わたしたちの生命(いのち)に関心なくして、どのように「美しい国」を目指すのか。いくらなんでも、もう少し国民と同じ土俵に立ち、きれいごとではない言葉で語ってほしいものである。
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