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コラム
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「“茶番”は、もうたくさん!」 楢原 多計志
(掲載日 2007.07.31)
 「またか」の感が否めない。年金記録不備問題に対する政府、与党の対応だ。保険料を納めたのに記録に残っていない、いわゆる“消えた年金”の解決策として、第三者機関が“性善説”に立って消えた記録を(出来る限り)回復させるというのだ。

 理不尽な悪徳役人の仕置きに苦しむ庶民を、突如現れた“正義の味方”が救済―という構図は、劇画としても古すぎるし、かえって、果たすべき国の責任を曖昧にするだけだ。自民党大敗。失敗に自戒が伴わないと、自民党の命運も尽きるだろう。

■趣旨は悪くない

 中越沖地震のためか、7月17日、全国50カ所の年金記録確認第三者地方委員会(第三者地方委)で確認申し立ての受け付けが始まったが、ニュースとしての扱いは意外なほど小さかった。

 第三者委(中央委と地方委がある)は、公的年金の保険料を納めたにもかかわらず、社会保険事務所から「原簿やコンピューターに記録がない」「領収書などの証拠がない」などと訂正申請を門前払いされた受給者や加入者を救うため、官邸の主導で設置された。趣旨は良しとしよう。

 疑問が二つ。一つは、第三者委を社会保険庁ではなく、なぜ、総務省の所管としたのか。二つ目は、第三者中央委が示した「判断基準」によって現場で混乱が起きないか―という疑問だ。

■丸投げと場所貸し

 安倍首相は「今日の事態を招いた社保庁ではなく、客観的な視点から総務省に(第三者委)を置く」と説明してきた。

 総務省には、行政管理(行政評価)のセクションがあるが、自主的な検証は少なく、各省庁の資料やデータを頼りに行政評価しているのが実情で、複雑な年金記録の確認を主体的に行うことは「まさに想定外」(総務省職員)。

 地域によっても異なるが、第三者地方委の主要メンバーは弁護士、税理士、元社保庁職員、社会保険労務士(社労士)、ファイナンシャルプランナーら。この中で年金記録の実務に周知しているのは元社保庁職員や年金専門の社労士くらい。つまり、与党・官邸は総務省に丸投げ、総務省は第三者委に場所貸し、第三者委も専門委員に丸投げ―という図式が描ける。

 安部首相が丸投げした理由は、たぶんこうだろう。「何としても社保庁を廃止・解体し、年金業務は非公務員型の日本年金機構にやらせる」「非公務員にすれば、効率アップだけではなく、国家公務員削減すなわち行政改革の果実としてアピールできる」「国家公務員を削減できれば、民主党などの野党に打撃を与えられる」。これが安部流の三段論法なのか?

 社保庁職員がしでかした不始末は、社保庁職員の責任で最後までやらせるのが筋。不始末が処理したら、日本年金機構に年金業務をやらせればよいではないか。

■性善説と言われても

 記録確認のための判断基準(3項目)には驚かされた。(1)申し立ての内容が社会通念に照らし、明らかに不合理ではなく、一応確からしいこと(2)肯定的な「関連資料」及び「周辺事情」に基づく(3)肯定的な関連資料及び周辺事情がなくても申し立て内容を総合的に判断する―というもの。

 肯定的な関連資料は預貯金や家計簿の記録、確定申告の控えなど、肯定的な周辺事情とは雇用主の証言などをそれぞれ指すという。

 一読すると、「何でもあり」の印象を抱く。特に(3)は、関連資料や周辺事情が何もなくても、申立者の言い分に信憑性が高ければ、年金記録を回復させる―という解釈も成り立つ。

 もし、詐欺的な申し立てが通ってしまったら…。やがて不正に給付される年金の財源は、紛れもなく、現役世代の保険料や国民の税金だ。「私たちは性善説に立って判断する」(第三者中央委委員長)では困るのだ。

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