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(掲載日 2007.08.07) |
2007参院選は民主党の独り勝ち、自民党の歴史的大敗に終わった。事務所費流用問題に端を発した政治不信、「消えた年金」に象徴される将来への不安、小泉改革の負の遺産としての格差問題…安倍政権の敗因はいろいろと取りざたされている。しかし、それだけではない。根本的で最大の敗因がある。それが参院自民党の存在だ。
■田中政治以来の病巣
自民党の参院議員は自らの所属政党を「参院自民党」と呼ぶ。自民党から独立した存在であることを意識したものだ。「衆院のカーボンコピー」化とイコールの「参院の政党化」を実現させた田中角栄元首相以降、田中派、竹下派、小渕派が自らの政治的優位性を確保することを狙って、参院に人材を送り込んだ結果でもある。憲法で保障された政策決定における参院の影響力を背景に「参院自民党を制すれば自民党を制す」と言われて来た。
選挙への対応は単純だ。選挙区(旧地方区)においては現地の衆院議員、都道府県会議員、主要市議会議員、比例代表(旧全国区)においては各種支持団体の支持を得られる候補を擁立し、実際の選挙は衆院や地方議員、支持団体が取り仕切るというやり方である。候補者本人はみこしに乗っていればいい。そのやり方は小泉政権時代も変えられなかった。「独裁」と批判された小泉純一郎前首相も閣僚人事では派閥推薦を排したにもかかわらず、「参院枠」については参院自民党の言い分を飲むしかなかった。
■存在感発揮=自滅への道
今回の参院選も竹下登元首相の側近だった青木幹雄参院自民党議員会長、青木氏の右腕である片山虎之助参院自民党幹事長がすべてを取り仕切った。安倍首相は就任当初から候補者選考への公募制導入を含め参院選候補のさしかえを口にしていたが、青木氏らは「参院は衆院とは違う」と一顧だにしなかった。そこに、参院での関連法案否決が引き金になった「郵政解散−総選挙」で自民党政治の常識が覆ったことへの考慮はまったくない。
民主党の小沢一郎代表が1人区を中心に地方行脚を続けていたことに強い危機感を覚えていたものの、青木氏らは従来の組織積み上げ型選挙に固執した。「地元衆院議員や地方議員の協力を得るために候補者はくせのない人物がいい。自己主張しない奴が最適だ」(自民党選対関係者)。かくして、現職を含めた自民党候補の大半は、調整型かつ自己アピールが苦手な人材が中心になった。
組織積み上げ型選挙は本来、守りに強いはずだった。しかし、小泉改革でかつての支持組織はいずれも混乱している。中央とのパイプ役として政権を握っている方が有利という常識も相次ぐ公共事業の削減、地方経済の低迷などで通用しなくなっている。魅力に欠ける候補者が逆風の中でより多くの支持を集められるわけがない。閣僚経験のある大物を含めて現職の多くが落選の憂き目をみた。選挙結果を報じる候補者の顔写真付きのテレビ画面を見て、いまさらながら、「こんな候補者で民主党に勝てるわけがない」と感じた人も多かったのではないか。
■自民党再生の最後の賭け
だが、今回の参院選大敗、青木氏の議員会長辞任、片山氏の落選によって、参院自民党解体のチャンスが生まれたことも事実だ。ポスト青木の参院議員会長、ポスト片山の参院幹事長人事、内閣改造にあたっての参院枠の撤廃が続投を決めた安倍首相の当面の試金石になる。
候補者決定にあたっての公募制導入、参院における国会対策を衆院と一体化させることなど、やるべき課題は山積している。改革のメスを参院自民党に入れ、解体的出直しをはかる。それができなければ、安倍政権どころか自民党の命運は尽きる。「参院自民党」という呼称がなくなるまで徹底した改革が不可欠だ。
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