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「次期衆院選対策は参院選対策と同じでよいのか?」 土居 丈朗
(掲載日 2007.08.14)

 先般行われた参議院選挙は、与党の大敗、民主党の大勝に終わった。特に、定数が1人となった選挙区では、民主党が22議席を獲得し、民主党大勝の1つの象徴的出来事となった。自民党では、参議院選挙の敗因についての総括も始まっている。

 この1人区は農村部が多く、民主党がマニフェストで掲げた農家への戸別所得補償制度に支持が集まったことも議席獲得の一因となったとされる。さらに、この背景には、小泉内閣期の三位一体改革にあるという見方もある。

 つまり、人口が多い自治体は税源が多く税源移譲による増収の恩恵があったが、人口が少ない自治体はむしろ国庫負担金の削減による収入減で収支が悪化した。

 都市部の自治体では税収増を背景に借金返済が進んだり、行政サービスが向上したりしている。他方、農村部の自治体は、人口減少と高齢化による収入減と(社会保障費を中心に)支出増で、財政収支が改善せず、地域間格差を拡大させたとされる。

 こうしたことを受けて、地域間格差是正、地方に配慮した予算編成にシフトする動きが見られる。確かに、必要な地域間格差是正は行うべきだろう。しかし、これが果たして来るべき衆議院選挙対策になるのだろうか。

 衆議院議員の選挙区は、参議院議員の選挙区のよりも定数是正がより厳格に行われている。人口が多い都市部により多く定数が配分されている。より明確に言えば、衆議院議員は、参議院議員よりも農村部から選出される議員が少ないのである。

 地域間格差是正や地方に配慮した予算編成に力を入れれば入れるほど、都市部の納税者により重い負担を強いることになる。そう考えれば、次期衆議院選挙に向けて、今回の参議院選挙と同様のスタンスで臨んで、より多くの議席を得られるとは思えない。

 だから、次期衆議院選挙に向けての争点は、いかに都市部の有権者にも恩恵が及ぶ政策を提示できるかが、各政党には問われることになる。

 その点を勘違いした政党は、次期衆議院選挙では議席をうまく獲得できないだろう。2005年の「郵政解散」で自民党が圧勝したのは、都市部の小選挙区でことごとく議席を獲得したからであることを思い出すべきである。

 もちろん、今回の参議院選挙では、年金記録問題という、都市部も農村部も共通して重要視した問題があった。ただ、この年金記録問題は、極言すれば、誰が首相になっても、同じように対処するしかない問題で、その対応について政党間で選挙の争点にするほどのものではないものだ(ただし、これまで年金記録問題を放置したことに対する責任追及という側面が、今回の選挙の争点の1つになったとはいえよう)。

 地域間格差是正と、都市部の有権者に対して恩恵が及ぶ政策とは、両立できるだろうか。それは、ナローパスだがありえる。その政策とは、社会保障政策の洗練化である。ここでいう洗練化とは、単純な拡充と区別するために用いている。

 単に社会保障費を拡充するだけでは、その給付の財源を結局は都市部の勤労世代に重く押し付ける恐れがあり、それでは両者は両立できない。

 社会保障政策の洗練化とは、保障すべきものにはきちんと保障できるようにするとともに、社会保障財源を適切に確保することである。このことを通じて、実は、地域間格差是正にも寄与する。なぜならば、農村部は、都市部よりも高齢化が進んでいるからである。

 農村部に対して、真の意味で格差是正をするには、無駄の多い公共事業や公務員人件費が残る自治体に対して配られる地方交付税を増額するよりも、年金、医療、介護などに使途を特定して形で、社会保障制度を通じて所得格差是正を行えばよい。もちろん、この恩恵は、農村部に住む高齢者だけでなく、都市部に住む高齢者にも公平に及ぶ。

 農家だけに価格変動に対する所得保障を行っても、価格変動に苛まれる第2次産業、第3次産業の従事者には恩恵は及ばない。それでは、日本全体は救われない。地方交付税を通じて地域間格差是正をしても、無駄な地方歳出は温存される。

 有権者が、こうした点により厳格に目を向け、次期衆議院選挙で「政権選択」を行うことが求められよう。

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