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コラム
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(掲載日 2007.10.09)
■ひとり歩きする「社会保障費▲2,200億円」

 2008年度予算の概算要求基準(シーリング)で、社会保障費の国庫負担2,200億円削減が決定したと報道され、誰もそれを疑わない。

 しかし、ちょっと待ってほしい。2007年6月19日に閣議決定されたばかりの「基本方針2007」には、「平成23年度までの5年間に実施すべき歳出改革の内容は、機械的に5年間均等に歳出削減を行うことを想定したものではない。それぞれの分野が抱える特殊事情や既に決まっている制度改革時期とも連動させ(以下、略)」とある。2,200億円という数字は出てこない。

 そもそも過去5年間(「基本方針2006」までの5年間をいう)で、きりよく年2,200億円削減された年は1回だけだ。2002年度▲3,000億円、2003年度▲2,200億円、2004年度▲1,254億円、2005年度▲601億円、2006年度▲3,490億円、累計1.1兆円である。逆にいうと、過去5年間ひどい締め付けで無理やり1.1兆円削った。これを5年で割って2,200億円と言っているわけで、年▲2,200億円ありきではない。

 さらにいうと、「基本方針」は閣議決定で、内閣の意思表明だ。これに対して概算要求は主務大臣の権限で決定される閣議了解。しかしながら、社会保障費2,200億円の削減を決定事項として報道するマスコミの後押しもあり、関係大臣と財務省が内閣の意思(閣議決定)を踏みにじろうとする事態になりつつある。

■社会保障費2,200億円削減の重大性

 仮に、「社会保障費▲2,200億円」の土俵に上がるとしてみよう。これは、そもそも想定された自然増から2,200億円削減するという意味だ。

 ここでは自然増が一定だとして考える。ある年に今後5年間の自然増を見込む。1年目に2,200億円削減されると、削減後の値が2年目のスタートラインになる。そして、2年後は、そのスタートラインからの自然増に対して2,200億円削減される。つまり、2年後には、そもそもの自然増とは4,400億円の差が開く。

 2年間の累計削減額は6,600億円(1年目2,200億円、2年目4,400億円)だ。このように、想定された自然増から削減される額を累計していくと5年間3.3兆円にもなってしまう。

 今後5年間も同じように削減が進めば、10年前に見込まれた自然増からは10年間で累計12.1兆円が削減される。

 過去5年間に削減された社会保障費のうち、医療が責任を押し付けられたのは65%。今後もその予定でいくと、累計削減額12.1兆円のうち医療費に押し付けられる分は7.8兆円。国民医療費に占める国庫負担は約25%であるので、国庫負担7.8兆円を国民医療費に換算すると、ざっと30兆円。これは1年分近くの国民医療費に相当する。国民に対する医療給付は10年間で、1年分めしあげられることになる。

■弱いものいじめの医療費抑制

 厳しい歳出削減が行われているのは、2011年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するという目標があったからだ。そして、その背景には、日本(国)の国債・借入金残高が827.5兆円(2005年度末)にも上るという現実がある。

 社会保障費はそのツケを負わされているわけだが、それも変だ。なぜなら、国債(含財投債)残高の6割近くは、建設国債と財投債、つまり公共事業にかかわるものだからである。社会保障費に狙いをつけるのは順序が違う。

 国は、公共事業も削減しているし、財投改革も進めていると言うだろう。ところが、財投債残高は139.4兆円(2005年度末)もある。これを原資に財政投融資が行なわれているわけだが、財務内容が健全ではないところもあり、うかうかしていると、財政融資は一部が焦げ付くおそれがある。

 公共事業も、特別会計で経理されているため、なかなか実態がつかみにくい。2005年度の収支差引きでは、道路整備特別会計で8,623億円、治水特別会計で2,450億円の黒字(歳計剰余金)が出ているが、いずれも淡々とその会計で翌年度へ繰り越され、プールされる。

 さらにいえば「天下り先」として有名になった独立行政法人の存在だ。2005年度には、国庫から、運営交付金・施設費あわせて4.2兆円が支出された。これは、社会保障費削減額の2,200億円の比ではない。

 結局のところ、歳出改革の実態は次のようになっている。まず、官僚が使うお金(たとえば天下り先として期待される独立行政法人)は聖域だ。公共事業も、官益とのつながりが強く、手を出しにくい。そこで、もっとも声の小さい国民のための社会保障費が狙われる。

 2007年9月23日、新総裁が選出された。その公約には「高齢者医療費負担増の凍結を検討し、医師不足解消のための抜本的措置を講ずる」とある。これ自体は評価するが、またぞろ官僚にだまくらかされて、小手先対症療法になるのではないか。日本は、医療費、社会保障費について、根本的に行き過ぎた“改革”から引き返す時期だ。
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