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コラム
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(掲載日 2007.10.16)

 「またか…」と笑い飛ばすしかないのか。自民党と公明党が「高齢者医療制度の一部見直し」と「後期高齢者医療制度の被保険者保険料徴収」を凍結することで合意したという。

 いとも簡単に政策を転換させ、恥じようともしない政権を担う政党。まさに選挙のためなら何でもありき。マニフェストなどに書き込まれた「政権責任政党」(自民党)、「平和福祉政党」(公明党)が呆れる。

■ツケ回し

 周知の通り、高齢者医療制度の一部見直しとは、70−74歳の窓口負担を今の原則「1割」から同「2割」に引き上げること。また後期高齢者医療制度では被保険者に生計を維持されている被扶養者からも保険料を徴収する。

 厚生労働省はいずれも来年4月からの実施を予定していた。 ともに高齢者に重い負担を強いると、当初から世論的には反対が強かった。

 にもかかわらず、与党は、たいした反対論を展開するまでもなく、2割負担に関わる一連の医療制度改革関連法や省令などを次々と成立させた。

 また(厚生労働省内で討議中の)後期高齢者医療制度案についても正面を切った形では反対をしていない。それが凍結だというのだ。

 言い出しっぺは福田康夫首相。自民党総裁選で公約したから実現させるという。そうではないだろう。その先にある総選挙目当てであることくらい、少し考えれば、誰にでも分かる。見えすぎたウソは政権を足下から揺るがす。

 凍結に必要な財源について、与党のプロジェクトチームができた。何が決まっても、ツケは確実に国民(高齢者)に回ってくる。

 それにしても、限られた人たちにしか投票権のない政党代表選挙の候補者が、公言したら、施策が突然変わる。その程度の施策だったのか、国会の議決って、そんなに軽いものなのか。

■せっせと貯蓄

 政治家や官僚は高齢者の生活実態には目をつぶったまま。高齢者の約7割が年収300万円以下、生活費の大半を公的年金と預貯金の取り崩しで賄っているという現実。所得格差が広がったのか、生活保護世帯は100万世帯超の高止まり。

 そこに公的年金の給付調整(実質的に給付水準引き下げ)や、介護保険料引き上げ、そして高齢者医療費の負担増が続く。老後に不安を感じないのは、議員、上級官僚、日本経団連のトップくらいか。

 危機感の低い現役だって、定年となり、運良く再雇用されたとしても賃金は退職後の何分の一に落ち込む。現役時代に資産をせっせと蓄えるておくことだ。このままでは、病気がちな老後を迎えても、十分どころか、必要な医療や介護さえ受けられる保証はない。

■狙い撃ち
 
 社会保障費の自然増削減は、市場原理主義の有識者や経済団体の意見に従うまま、小泉純一郎政権がひた走った「エセ構造改革路線」が下敷きになっている。

 抜本的な税制改革も社会保障制度改革も行わず、ただ根拠のあいまいな数値目標を設定し、歳出を抑えるだけのワンパターン。どこが構造改革なのか、さっぱり分からない。

 厚労省が掲げる医療構造改革の柱といえば、「医療費の適正化」「保険者の再編・統合」など。中身が言葉通りなら反対はしない。だが、その中身と手段がお粗末限りない。

 貧弱な住宅政策や核家族化、穴だらけの在宅医療・介護ネットワークという現実を無視し、療養病床削減や在宅医療移行などで平均在院日数を減らして医療費を抑えるという。

 保険者の再編・統合もひどい。大企業お抱えの健康保険組合が実質的に再編・統合からはずされ、対象となるのは財政の苦しい政府管掌健保や国民健康保険ばかり。

 財政の豊かな保険者が参画しなければ、保険者全体の強化や平等・公平化にはつながらないはずがない。

 超高齢化に入ったいま、医療・介護費の増加が避けられない。ならば、国や自治体の予算構造や組織を超高齢化時代に合致したものに変えるべきだ。

 医療でいえば、医療費増加の理解を国民に求め、負担を在り方を税制とともに徹底した論議を踏まえて根底から立て直すことだ。

 低所得者が多い後期高齢者を既存の保険から切り離す意義はどこにあるのか。保険制度高齢者の乏しい懐を狙うくらいなら、法人関係税引き下げで「うま味」を覚えた収益の高い大企業をを狙い撃ちした方が、はるかに効率が良い。
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