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コラム
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(掲載日 2007.11.27)
 
 昨年来、給食費や保育料の滞納についてメディアが積極的に取り上げている。

 厚生労働省の調査によると、2006年度の全国認可保育所の滞納保育料は約90億円、滞納者は全体の3.7%であるという。また、文部科学省は2005年度の滞納給食費は22億円であり、滞納率は0.5%であることを公表した。

 ちなみに、私の住む北海道は保育料滞納では全国ワーストワン、給食費についても沖縄についで滞納率が高い。

 給食費や保育費を滞納すること自体は、従来からあった。最近になってこれを取りざたする理由は二つであろう。

 一つはその数が看過しえないほど急増していること、もう一つは、現在は支払能力があるにもかかわらず、滞納するケースが目立ってきたということである。後者をもってして、保護者のモラルが低下したと評する報道が多い。

 こういったモラルの低下を、しばしばモラルハザード=道徳的荒廃という。明確な違法・違反行為ではないために刑罰や損害賠償責任を課すことはできない。しかし、邪な心をもって行動するために厳しい社会的非難が向けられる。

 社会保障制度、とりわけ生活保護、医療あるいは介護の分野はモラルハザードが生じやすい土壌を持っている。

 まず、生活保護におけるモラルハザードとは不正受給である。収入や資産があるのにないと申告、あるいは就労能力があるにもかかわらず、それを偽るような場合である。これに対抗するには保護申請時の資産や家族に関する調査を厳格に行うことが効果的である。

 しかし厳格な調査によって、しばしば本来は保護を受ける資格のあるのに、遠慮がちで気弱であるがゆえに受給できない生活困窮者が出現する。これを漏給という。そして、保護が受けられなくて餓死したという事例では、これが漏給ではなかったかが常に問われる。

 他方、調査を緩やかな基準に設定すると、受給資格のない者までが保護費を得られるという事態、濫給がおこる。それゆえ資産調査においては、バランスのとれた厳格さと寛容さが求められる。

 医療の場においては、窓口での代金不払い、急を要さないのに夜間救急センター利用、救急車をタクシー代わりに使う事例などが患者側のモラルハザードとして指摘されている。

 前者に対応するため、埼玉医大総合医療センターは来春から夜間や休日の軽症救急患者に健康保険を適用せず、一律8400円の時間外特別料金徴収を検討しているという。

 モラルハザードは給付の受け手ばかりでなく、サービス提供者側にも見られる。医療機関、介護保険施設あるいは各種社会福祉施設における不適切あるいは違法な行為、たとえば診療・介護報酬の不正・不当請求、施設内での虐待、などが挙げられる。

 サービス提供者によるこのような事態を想定して、社会保障各立法には彼らに対する行政の管理監督規定や機関指定取消規定がおかれている。

 法律を作るときに人は嘘をつかず誠実に行動するという性善説にたつべきか、そうではなく性悪説に立脚するべきか、先のような現象が起こるようになった今日、あらためて考える必要があるだろう。

 ところで受給側、供給側双方の不適切な行動は、そのような行動を起こさせないような規制、あるいは起きてしまった場合、当事者の処分を定める法改正へ帰結する。

 そして、ときに改悪と批判される、このような制度改正によって不利益を被るのが、邪な心を持った者ではなく、誠実で善良な市民ということがある。このことを政策担当者は忘れてはならないであろう。
                                    
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