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コラム
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(掲載日 2008.04.29)
 
 “案の定”と言うべきか、福田首相が率先して「長寿医療制度」と言い直したところで、とりわけ高齢者が日々抱着く“不安”を解消するには、時が遅すぎた。

 悪評を招いた責任は、何も、与党と政府、都道府県の広域連合などだけにあるわけではない。財政再建一本槍の財政当局や経済財政諮問会議に期待に応えようと、厚生労働官僚が書き下ろした“医療構造改革”に、まんまと乗ったのは誰だったのか。

 権益死守に追われ、患者の心情を読み取れなかった日本医師会や日本看護協会、それに、あれほど老健制度に憎悪していた健康保険組合連合会や日本経団連も同罪ではないか。

 ほとんどの高齢者には、74歳と75歳で医学、医療で区分される理由が分からない。社会保障審議会では一応の論議があったが、肝心な高齢者にはほとんど伝わっていない。これでは新制度が理解されるはずがない。

 騒ぎになって、審議会の専門医が「欧米でも75歳以上になると複数の疾病が重なり、相応の医療的な対応が必要になるというデータがあると説明したんですが…」と白衣姿でテレビインタビューに答えていた。呆れた。それこそ患者に早く説明すべき重要事項ではなかったのか。審議会の場で、誰に向かって意見を述べていたのか。

 新制度の仕組みにはほとんど新鮮味がない。財政構造も老人保健と大差ない。

 余談だが、一番の誤算は健保組合だったのではないか。多額の支援金(前期高齢者医療は納付金)の拠出を余儀なくされ、健保組合幹部は大慌て。母体企業の経営者は渋い顔だ。このままでは赤字決算か、内部資金取り崩しか、保険料率引き上げか。

 あえて皮肉を一つ。国民健康保険と一緒になった方が公費助成もあるし、いいのでは…。被保険者から、保険者機能の当事者としての能力が問われ続けているのに、健保組合幹部は今も気付かない。

 経営者が収益確保に狂騒するのは理解もできようが、被保険者と家族の命と健康を保険者として支えるのが健保組合。その責任者は極めて重い。

 それにしても、なぜ、高齢者が不安に駆り立てられるのか。保険料はいずれ引き上げられ、患者一割負担もいつまで維持されるのか分からない。

 在宅医療(療養)と言われても家族は歓迎してくれるのか…。分からないことだらけ。この不安に誰も本心で答えてくれない。かの民主党もだ。

 分かっているのは、死ぬまで(死んでも?)金がかかるということ。もう一つ分かっているのは、頼りの公的年金があまり当てにできなくなっていることだ。

 先の年金制度改正で<被保険者が減り続ければ、マクロ経済スライドが機能し、物価スライドも削られる。年金の給付水準が下がるのに、逆に保険料負担が増える。つまり、どこまで年金が目減りするのか、不安なのだ。

 年金(記録)問題の全面解決さえ、めどが立たない状況の中で、また年金から新しい保険料が天引きされる。高齢者の怒りと戸惑いの背景には、年金問題に対する不信と不安が深く関わっているように思う。
 
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