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コラム
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(掲載日 2008.07.01)

  以前、このコラムで少年事件について述べたことがあったが、その続編として今回は外国人の少年事件を取り上げたい。

 ■イラン人の少年

 よくある話であるが、イラン人の少年(18歳)が偽造パスポートで日本に入国し、不法在留していた。当初、建設現場などで働いていたが、仲間に誘われ薬物犯罪の末端の役割を担うことになってしまった。

 しかし、路上で職務質問され、偽造パスポートであることを見抜かれて逮捕された。取調べで薬物犯罪についても自白した。

 ■身柄拘束の長期化

 外国人の薬物犯罪の場合、組織的な背景が疑われる上、通訳を介した取調べになるので、どうしても身柄拘束が長期化する傾向がある。

 通常の少年事件であれば、10日も勾留されれば、家庭裁判所に送致(脚注:成年の事件であれば、@逮捕A勾留B起訴C公判D判決と手続きが進むが、少年事件の場合、@逮捕A勾留B家裁送致C鑑別D審判と手続きが進行する。)となるケースが多いが、彼の場合、合計4回も逮捕が繰り返される結果となり、身柄拘束は結局70日を超えた。

 その後、鑑別所に入って20日以上過ごしたので、審判を迎えるまででも100日近く拘束されたことになる。逮捕の理由も、不法在留、アパートの賃貸借契約書で偽名を使ったという私文書偽造、覚醒剤の所持及び販売など、別件逮捕のにおいがするものも含めて、使えるものは全て使った感がある。

 ■鑑別所

 家庭裁判所に送致され、鑑別所に入ってからも、二度ほど調査官が来て、通訳を介して話をして行ったきりで、日本人の少年のようにきめ細かな処遇がされるわけではない。

 言葉は悪いがほったらかしといった感じである。付添人が調査官と話をしても、調査官も調査のしようがないらしく、木で鼻をくくったような対応である。

 ■逆送

 結果、少年の処遇は検察官送致(逆送)。

 逆送とは、家庭裁判所の裁判官が、少年法が本来予定している保護処分(少年院送致や保護観察など)で少年の更生を図るよりも、刑事処分を受けさせる方がよい、と考えた場合に取られる処分で、その処分を受けて検察官が成人と同じように起訴し、有罪で実刑となれば少年刑務所に収容されることになる。

 少年刑務所は判決時に未成年であった者が実刑判決を受けたときに収容される刑務所であり、保護処分のために送られる少年院とは異なる。

 逆送されるということは、少年として保護するよりも、大人と同じ応報刑(脚注:応報刑とは、刑罰は過去の犯罪行為に対する応報として犯人に苦痛を与えるためのものだとする考え方)を受けさせて充分に処罰しなければ社会が納得しない、ということである。

 ■逆送の真相

 確かに、このイラン人の少年も、覚せい剤の販売という社会に大きな害悪をもたらす犯罪を敢行しているので、応報刑を受けさせることが相当とも言えるし、裁判所に聞けば、そう言うに違いない。

 しかし、前歴のない日本人の少年が暴力団の兄貴に唆されて覚せい剤を売ったとして、一発で少年院を飛び越えて少年刑務所に入るかというと、それはあまりないように思える。

 このイラン人の少年が逆送されてしまうのには、少年自体の罪の重さ自体もさることながら、日本の少年保護制度の限界が影響しているように思われる。日本の少年院にも国際科を有する施設があって、外国人の少年が一定数いる施設があるようである。

 しかし、この少年院に収容されている外国人少年は、現在、ほとんどがブラジル人のようである。想像であるが日系ブラジル人で里帰りした少年や、里帰りしたブラジル人の成人の子女が非行を犯して収容されているのではないだろうか。

 ブラジル人の他にはペルー人やボリビア人もいるらしい。要するに南米の人だけなのである。とすると、施設としても、いきなりペルシア語しか話せない少年です、お願いします、と言われても対応できないのである。

 このように日本にはイラン人の少年を保護できる少年院がないという実態も、少年の逆送決定には影響を与えているのではないだろうか。

 ■逆送の結末

 逆送されて、起訴されると、公訴事実に営利目的譲渡が含まれている限りは実刑判決になるかもしれない。とすると、少年は、血気盛んな日本人の少年ばかりの少年刑務所に入れられて、何年か肩身の狭い思いをすることになる。

 仮に少年を逆送して応報刑を受けさせることが正しいとしても、外国人で日本語を介さないというハンデを負っている少年にとって、その応報は日本人の少年よりも過酷なものとなりがちである。

 もし、少年の逆送決定それに続く実刑判決に日本の保護施設の事情が影響しているものだとしたら、少年が受ける処遇は本来の趣旨からあまりにかけ離れていることになる。

 もうすぐ裁判員制度が導入されるということで、裁判所や法務省もPRに余念がない。マスコットキャラクターを作って、法務大臣がその被り物をかぶってみたり、俳優を使ってPRビデオを作り、その35ミリフィルムも作ってみたが、ほとんど上映されず、会計検査院から無駄な支出であると指摘を受けたりしている。

 誰が賛成しているのか分からないような裁判員制度に回す膨大な予算の一部でもいいから、既に明らかな資源の不備を補うために回してほしい。

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