先見創意の会 (株)日本医療総合研究所 経営相談
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コラム
今週のテーマ
(掲載日 2008.07.29)

 昨今、事業承継という言葉を新聞や雑誌、書籍で目にする機会が増えている。

 事業承継とは、文字通り、先代から事業を承継することを意味する。事業承継を円滑に進めるためには、事業を承継する後継者の育成と事業を後継者に移転するに際して生じる様々な税負担が大きな課題になることが多い。

 医業経営の世界でも病医院経営者の多くが世代交代期に差し掛かっており、事業承継の問題がクローズアップされている。

 私のコラムの最初のテーマは事業承継を採り上げ、特に事業承継を税の世界から考えてみたい。

 昨今、税務関係者の間では事業承継税制の構築がホットな話題となっている。 事業承継税制とは、事業を後継者に移転する際に生じる相続税や贈与税について緩和する仕組みだと捉えれば分かりやすい。

 多くの事業経営者が世代交代期を迎えることから、円滑な事業承継を税制面から支援するために事業承継税制の議論が本格化している。

 議論されている事業承継税制は、納税猶予制度。すなわち、同族会社の株式を後継者が相続した場合に生じる相続税について、その納税を猶予しようというものである。

 納税を猶予するという点が大きなポイントで、相続税を納めなくても良いという措置ではなく、後継者が承継した同族会社の事業を継続している限りは、相続税の納税を待ってあげる。

 が、しかし、事業の継続が途切れたりした場合には、その時点で相続税を納税して下さいという制度である。

 業暦の長い会社や業績の良い会社の株式の相続税評価額は、かなり高い金額になるため事業継続を前提とした事業承継である場合には、いくら納税猶予制度であったとしても、非常に有効な制度であるといえる。

 しかしながら、この制度、持分の定めのある社団医療法人は対象外としている。

■医療法人は仲間外れ

 いわゆる出資持分の定めのある医療法人にも一般事業会社と同様に事業承継に伴う相続税の問題は存在する。

 にもかかわらず、医療法人は、事業承継にかかる相続税の納税猶予制度の対象から外されているのはなぜであろうか?

 それは、昨年全面施行された第5次医療法改正と関係がある。

 第5次医療法改正では、医療法人制度についても大きく見直しが行われた。 最大の見直しは、出資持分の概念をなくした事である。 厚生労働省は、医療法人の非営利性を担保するために、従来認められていた出資持分の概念をなくした。

 その背景には、出資持分を保有している社員が医療法人を退社する際に、出資割合に応じて医療法人から払戻しを受けることができる権利や、医療法人が解散した際の残余財産の分配を受ける権利を有していることが挙げられる。

 これらの行為は、簡単に言えば、過去に医療法人が蓄えた財産を出資持分を通じて出資者に払い戻す行為と同じである。その意味からは、事実上の配当行為であるといえる。

 今回、出資持分の概念を無くすことで医療法人の財産が出資者に戻ることはなくなる。

 出資持分の概念を無くすことは、これらの行為が配当禁止を謳っている医療法の規定に抵触するのではないかという指摘、議論に対する厚生労働省の答えといえる。

 税の面からは、出資持分の概念がなくなったということから、新制度により設立された医療法人に対しては、相続税の問題は生じなくなる。

■経過措置型医療法人

 しかしながら、新医療法がスタートする前に、既に医療法人化していた場合はどうなるのか?

 改正医療法の新しい条文一本で過去に懸命に蓄えた利益が出資者に対して一切戻らなくなるのはいかがなものかということから、経過措置が設けられ、従来の取扱い、つまり、出資持分の概念は引き続き残る仕組みとなった(この取扱いを受ける医療法人を「経過措置型医療法人」という)。

 これにより、医療法人の出資者は、医療法人が過去に蓄えた利益の払戻しを受ける権利を確保した一方で、出資持分に対する相続税等の問題、すなわち、事業承継に伴う税の問題も引き続き抱えなければならないこととなった。

 であるにもかかわらず、経過措置型医療法人は、円滑な事業承継を税制面から支援するための事業承継税制の対象外となっている。

■事業承継問題と地域医療の継続

 前述のとおり、厚生労働省は、医療法人の非営利化を担保するために第5次医療法改正で出資持分の概念を消し去った。また、既存の医療法人についても速やかに新制度における出資持分の概念のない医療法人へ移行することを想定している。

 そのため、既存の医療法人がそのままでいること、すなわち、移行しないでいることを支援する仕組みが存在することは、厚生労働省のこうした考え方に反する。

 事業承継税制は、あくまでも、出資持分に対する相続税等の軽減措置であり、既存の医療法人がそのままでいること、すなわち、移行しないでいることを支援する仕組みであるといえる。

 新制度への移行を進めたい厚生労働省は、事業承継税制について既存の医療法人を対象とすることに消極的にならざるを得ない。

 既存の医療法人は、事業承継に関して、まさに八方塞、打つ手無しの状態である。事業承継を機に、税負担の問題から事業継続が困難に陥る医療法人も今後出てくるのではないかと懸念される。

 医師不足や経営悪化などばかりがクローズアップされるが、地域医療の継続に大きな支障となりうる要因がこんなところにもあることを問題提起したい。

 次回以降は、医療法人を取り巻く事業承継の税問題について、更に深彫りしたい。

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