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コラム
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(掲載日 2008.08.12)

 このところ、基礎年金の財源論をよく目にする。税方式か保険方式かという、もっともらしい議論だが、本質的な議論とはいえない。

 というのも、基礎年金の3分の1はすでに国庫負担でまかなわれている。そして、残りの3分の2も、保険料で集めた金から出ているとはいえ、保険料の特徴とされる「負担と給付の関係のわかりやすさ」はない。

 基礎年金の保険料を払う人はいない。「学生と無職者」、「厚生年金に入れないサラリーマン」、「自営業者」は国民年金保険料で、「経営が比較的安定した企業のサラリーマン」は厚生年金保険料、「公務員」は共済年金保険料を払うが、基礎年金の保険料としては払わない。

 それぞれの年金加入者は、すべて基礎年金にも加入していることになっていて、その年に必要な給付額を頭割りにして1人当たりの負担額が決まる。基礎年金を受け取る人がどの年金制度に入っていたかは関係ない。

 1人当たりの負担額を、それぞれの制度の人数に応じて割り振って、それぞれの年金制度の分担金を決め、基礎年金の財布に入れて配るという単純なものだ。

 その際、サラリーマンの妻であることが多い「第3号被保険者」は、扶養者である夫(もしくは妻)が所属する年金制度の一員としてカウントされる。3号被保険者は国民年金をもらうというが、負担する時には、厚生年金や共済年金の加入者として数えられている。

 そして、国民年金加入者は、保険料免除者と未納・未加入者が差し引かれて数えられる。そのため、いくら未納があっても、国民年金財政は困らない。基礎年金への負担金が減るだけで、その分がサラリーマンの年金にしわ寄せされる。

 制度上は、未納があっても困らないようにできている。これでは、国民年金の未納対策に本腰が入るはずがない。

 基礎年金は、公的年金の加入期間に応じて支払われる。その金額は国民年金と同額だ。ところが、国民年金の加入者は減っている。

 一方で、過去の加入者は多かった。集まる保険料は減っているのに、支給額は増えている。これを支えているのが「基礎年金マジック」なのだ。

 種明かしは簡単。厚生年金、共済年金の加入者から国民年金の受給者に金を渡す仕組みに「基礎年金」というもっともらしい名前をつけただけのことだ。

 今後、公務員は減るはずなので、共済年金加入者は減ることになる。その時には、また、基礎年金マジックが生きて、厚生年金は国民年金と共済年金の受給者を支援することになるだろう。

 基礎年金制度は、基礎年金の支給のために、サラリーマンにかかる「人頭税」といえる。こんな負担を保険料方式と呼んで、平気な顔をしている厚生労働官僚は、本当に面の皮が厚い。

 良心のかけらでもあるのならば、まずは厚生年金と共済年金の統合を真剣に進めるべきだ。
 そうすれば、厚生年金の疲弊のスピードを緩めることができる。

 それは、基礎年金の仕組みを考えればわかる。国民年金は、基礎年金の金額を支給しておしまいだが、厚生年金、共済年金は、残った資金で上乗せの「報酬比例部分」をまかなう。

 厚生年金のモデル支給額でいうと、基礎年金は夫婦がそれぞれ6万6千円ずつで、13万2千円。夫(妻)の報酬比例部分が10万1千円なので、集めた保険料の半分以上が基礎年金の支給に使われる。

 厚生年金の加入者の月給は9万8千円から62万円と幅広く分布している(注1)。最低限の9万8千円に約15%の保険料率をかけると国民年金保険料とほぼ同額になる。

 保険料負担は労使で折半なので、本人負担は国民年金の半分で、3号被保険者も合わせると、夫婦で基礎年金を受給して、報酬比例部分も受け取ることができる。国民年金保険料の4倍以上の価値があるといえる(注2)

 3号被保険者がいる人は、理論的には、会社も含めた負担で約20万円までは、国民年金並の負担で基礎年金も報酬比例部分も手にすることができる。本人負担だけを考えれば40万円程度までは国民年金程度の負担で報酬比例部分まで受給できる。

 共済年金も同じことだが、公務員の給与は、民間に比べると平均的に高いので、低収入の人のための負担が軽く、報酬比例部分の支給に余力を残すことができる。簡単に言うと、集めた保険料の中から将来のための積立金に回す金の比率が高くなる。

 みんなのための拠出をごまかして、せっせと貯蓄しているのが共済年金ということができる。いろいろと抵抗して厚生年金との統合をサボタージュしている理由がわかるというものだ。おまけに、老後は、厚生年金から基礎年金を通じて補助を受けながら、報酬比例部分はちゃっかりいただくという構図ができているのだ。

 こんなことを許してはいけないので、共済に余力があるうちに厚生年金の中に入れて、貧乏サラリーマンのための負担をしてもらわないといけない。

 もうひとつ、許せないのが、国民年金に加入している金持ちだ。助け合いから抜け出して、一部の負担だけをしている、もしくは厚労省の無策に乗じて保険料さえ払わずに、自分のために貯蓄をしている。

 そういう連中は、仮に事業に失敗するなどして収入が減ったとしても、生活保護などの水準は、貧乏暮らしを続けてきた人より低くしてしかるべきだろう。  

 基礎年金の国庫負担を2分の1に上げられるかどうかが注目されている。もし、これが実現されると、基礎年金は半税半保険方式となるが、実態は半分が一般の税で半分が人頭税の制度だ。

保険方式などという幻想は捨てて、より公平な負担について、実のある議論を早く始めるべきだ。

(注1) 正確には標準報酬月額といって、保険料計算の基礎。実際の給料に近い金額で社会保険庁に届けられる。62万円以上あっても62万円とされる。保険料率をかけて、保険料を算出する。
(注2) 非現実的な試算ではない。悪知恵が働く経営者は、厚生年金に加入して保険料を払う会社に社員を所属させ、そこで最低限の給料を支払い、厚生年金に加入していない別の会社からも給料を支払って保険料負担を低く抑えている。本来は、両方の収入を合算して保険料を計算すべきだが、厚生年金はそのような負担方法を前提としていない。

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