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(掲載日 2008.09.09) |
年金積立金の運用がうまくいかず、07年度の厚生年金は5.6兆円の赤字を出す決算だったという。
昨年夏のサブプライムショックを受けて、日本と世界の株価が大きく下がり、米国経済の打撃から進んだ円高で外貨建て資産が目減りしたことが、年金財政を直撃した結果で、改めて不安を持った方も多いだろう。
しかし、これで年金が初めて赤字になったと受け止めるのは誤解だ。
06年度までを見ても、年金財政は大きな赤字を続けてきた。ところが、保険料や税金など、制度上、年金会計の財源とされるもの以外の資金の動きを「歳入」として計上するドンブリ勘定で、表面的な「黒字」を取り繕ってきたのが日本の年金財政だということを説明したい。
わかりやすい例は03年度に登場した厚生年金基金の「代行返上」だ。
厚生年金基金は、会社が国に納めるべき年金保険料の一部を手元で運用し、社員に企業年金として支給する制度(代行)だが、バブル崩壊の運用難で必要な積立金を維持することが難しくなったため、本来であれば国にあった積立金を戻すこと(代行返上)が認められた。
返上が始まった03年度の厚生年金会計の決算には、「解散厚生年金基金等徴収金」という項目が登場する。03年度はそれが3.5兆円あった。代行返上された積立金は、この年度に支払われた保険料ではない。
過去に支払われ、本来は国の積立金であるはずのものが返ってきただけのことだ。それを歳入に計上するのは財政の健全性を見えにくくする。
決算には、代行返上のほかに、「存続組合等納付金」という項目もあるが、これは公務員と同じ共済年金だった旧国鉄、旧電電公社、旧専売公社が民営化されたことにともない、厚生年金に加入することになった際に、本来持っているべき積立金に足りない分の埋め合わせをしているものだ。これも、本来なら過去に支払われているべきだった保険料の穴埋めでしかない。
03年度の場合、代行返上と合わせた約4兆円を歳入から除くと、赤字額は4.3兆円にふくらむ。
04年度は代行返上の5.4兆円と、3共済を合計すると5.8兆円あり、実質的には5.6兆円の赤字。05年度も同様に約3兆円の赤字となる。
04年度決算までは、こうしたことを決算発表の際にきちんと説明していた。ところが、05年度決算からは運用成績を強調して、「時価ベース」での黒字を誇示するようになった。
しかし、05年度決算を見ると、年金財政の病根が増えていることが指摘できる。「積立金より受入」が始まっているためだ。
これは、積立金を取り崩して「歳入」に計上するということだ。その額6.2兆円。巨額の積立金を取り崩して歳入をまかなっているにもかかわらず、年金財政は運用成果で「黒字」だというのだ。
一般常識では、積立金を取り崩すということ自体が「赤字」を意味する。考えてもみてほしい。月々の支出に月給が追いつかずに貯金を取り崩しながら生活をしていながら、株の運用がうまくいっているからといって、自分の家計は黒字だと胸を張る人がいたら、金銭感覚がおかしいと思われるだろう。
さて、上記の6.2兆円のうち4.1兆円は、年金住宅ローンの「繰上償還」に使われた。年金住宅ローンというのは、グリーンピアの失敗で知られる旧年金福祉事業団(年福)が行っていた住宅ローンで、正確には財投資金から年福が資金を借り入れて、年金に加入しているサラリーマンらに住宅資金を融資していた事業だ。その事業を収束させるために、年金積立金の資金で買い取ったと理解できる。
年金住宅ローンの新たな貸付は行われず、引き継いだ独立行政法人の福祉医療機構(WAM)が回収をして、年金財政に戻すことになっている。06年度には、雑収入に4千億円余りが計上され、07年度にはWAMからの納付金(約5千億円)が明記されることになった。今後、住宅ローンの返済が滞った場合、そのつけは年金財政に回ることになる。
「歳入」での積立金の取り崩しは06年度3.4兆円、07年度4兆円と拡大しており、代行返上も3共済の納付金も続いている。さらに、07年度の運用は大赤字だったにもかかわらず、年金積立金管理運用独立行政法人は1.2兆円を納付している。
独法の納付金は積立金の取り崩しだ。合計で5.2兆円の積立金を取り崩していることに注目すべきだ。
実際、運用の結果を考慮しない「簿価ベース」の決算でも、積立金は3兆円減っている。運用結果を加味すると9.6兆円も減っているのだ。
厚生年金の財政は、サラリーマンの保険料と税金などでまかなわれていると説明されるが、実態は過去の積立金や住宅ローンの返済などに助けられて、なんとかかんとか体面を保ってきたというのが実態なのだ。
こうした会計処理は、資金の流れ(フロー)と資産の管理(ストック)を分けて把握する民間企業の複式簿記を採用していないために起きていることだ。そのため、運用がうまくいった時には運用結果まで歳入に入れて健全性を誇示する発想が出てくる。
年金積立金を株式などで運用することの是非は別にして、資産の動きと本来の年金の収入は分けて管理しなければ年金財政の健全性はわからない。
1日も早く決算発表のあり方を見直して、財政が健全性を維持しているかどうか、国民にわかりやすいものに変える必要がある。企業の決算に透明性が求められるのは、経営がおかしくなっていることを少しでも早く知り、早めの対策を打つことで従業員や株主の利益を守る必要があるためだ。
そのため、それをごまかす行為は「粉飾」として刑事罰まで受ける厳しい措置がある。年金財政に透明性が求められるのは当然のことだ。
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