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コラム
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(掲載日 2008.10.07)

 「最近の子供たちは・・・・・」、「今どきの大学生は・・・・・」という話をよく聞く。コンピューターや携帯電話を小学生が自由に操作し、高校生になれば、インターネットを駆使して、瞬時に世界中の情報を獲得もできる。昔と同じわけがない。  

 そして、彼らの内面的な特徴としては、コミュニケーション能力不足、キレやすい、等々、あまり良い言葉を聞かない。  

 忘れてならないことは、変わったのは子供だけではない。私たち現役世代も、高齢者世代も一時代前とは、変わっている。つまり、子は親の鏡ということなのだろう。

 超高齢者化社会を迎えて、社会保障制度の受け手となる高齢者の考え方や価値観が、制度そのものに大きな影響を及ぼすことは、既に言われているところである。このように、21世紀になり、これまでとは異なる様相を見せる高齢者を、新世代高齢者と呼ぶことにする。  

 彼ら新世代高齢者は、現時点では社会保障制度の直接の受給者というよりは、むしろ、そのような者たちの子供世代として位置づけられる。具体的には現在の団塊の世代が、この新世代高齢者に該当すると考えている。  

 団塊の世代は、戦後に生まれ、民主主義教育を受けて育った。学生運動に関わった者もいれば、そばで見るだけの者もいて、価値の多様性を実感している。また、若者たち同様、パソコンや携帯電話を使いこなし、必要な情報を入手できる。

 戦後教育の賜物か、あるいは多くのメディアに接して影響を受けたからか、ここ数年来、彼らもまた自己決定・自己責任を是とすることが多い。

 その一つの例として、たとえば、テレビ等では、定年を前に会社を辞め、夫婦で農業を始める、喫茶店を経営するという生き方が紹介されている。自分の生き方・人生に積極的に関わる姿勢が伝わってくる。

 また、団塊の世代が就職する頃には、日本は皆保険が達成されていた。病院へのフリーアクセスを享受し、受ける年金も相当な水準に達している。新世代高齢者は、経済力と社会保障制度への権利意識を持った高齢者でもある。彼らの親世代に、これらを持つものは少なかった。

 先日、知人のグループホームの経営者が、これからは上記に述べた新世代高齢者を想定した施設経営をしていかなければならないと話していた。それは、彼らの親に対する態度、施設に対する要望から感じるという。

 たとえば、彼女の経営する施設に85歳になる母親を連れてきた63歳の娘は、軽い認知症の母親に、「お母さんは何がしたいの」と尋ね、施設には「何をどこまで、どのような方法でサービスを提供するのか」と聞いたという。このような例は最近、珍しくないそうだ。

 一昔前なら、施設に親を預ける場合は、置かせてもらうだけでありがたいとして、ひたすら家族は施設に対して平身低頭、何をしてくれるのかなど聞くことは考えられなかった。

 制度の成熟と人々の意識が、利用者やその家族の言動を変えていったといえる。とりわけ、介護保険や障害者自立支援制度によるサービスが利用者と事業所との契約方式によって始まるようになって以来、彼らの意識の変化が顕著である。

 それは制度利用があたかも商品の売買であるかのように考えるところに基因する気がしてならない。その極端だが、しかし少なくない例が施設内事故に対する賠償請求である。

 自分の老親に対して、どのような施設サービスを望むのか、あるいはどのような老後を過ごしたいかを尋ねる子供たちが増えてきたと述べた。それは自分が、自己決定を尊重してもらいたいから、きっと親もそれを望んでいるに違いない、と思うからであろう。 

 この新世代高齢者たちの多くは、介護保険サービスを利用する場合でも、施設に入る場合でも、自分でとことん調べて選び、決めようとするだろう。

 彼らの情報交換の場として、将来は「グループホーム口コミサイト」が流行るかもしれない。そうなると、ケアマネージャーの活動領域は小さくなるかもしれない。

 また、彼らの高齢者世界へのデビューは社会保障制度、とりわけ高齢者介護の世界が批判と評価の目に晒されることを意味するといえる。そうなると、質の低い事業所は淘汰され、業界全体の改善につながるかもしれない。

 しかし、他方で契約意識の明確で強固な利用者の登場は、事業所や病院などに対して、サービス内容の具体化、説明、契約不履行の場合の措置など、多くの作業を課すことになる。

 つまり、事業所等は本体のサービスよりも、リスクマネジメント的な業務に追われることになりかねない。

 介護であれ、医療であれ、人間相手のサービスである。そこで求められるのは、契約内容の忠実な履行よりは、臨機応変で応用の利いた対応である。

 このような対応を後になって、契約違反であると訴えられたら、社会保障サービス提供者らは萎縮して、むしろ必要なサービスさえできなくなるだろう。

 新世代高齢者たちは、今後の日本の高齢者福祉サービスをはじめとする社会保障制度のあり方に大きな影響を与える存在となるだろう。

 そのときに、権利意識や契約制の性質を過剰に主張すると、上記のような副作用が発生するかもしれないことを十分に理解すべきだろう。

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