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(掲載日 2008.10.21) |
新型インフルエンザ。この呼称は明らかに良くない。かってSARSのことを新型肺炎と呼んだときと同じだ。両者とも海外にはない表現だ。
新型という言葉の中には、内容がイメージ出来る特異性はない。これは一般的呼称であって固有名詞とはなりえない。
臨床の場では、このような曖昧な病名は、医師達にそれほどの関心は持たれない。具体性に欠ける疾病単位(clinical entity)だからだ。どちらかと言うと行政用語に近いのかも知れない。
”SARS(重症急性呼吸器症候群)”の場合は、間違いなく臨床的疾病単位であった。SARSコロナウイルスにより引き起こされる重症型肺炎を意味した。
その致死率も10%前後と高かった。だからいつまでも新型肺炎と曖昧に呼ぶことには、臨床の場では違和感がもたれたはずだ。
新型インフルエンザは独立した疾病単位となっているだろうか。もしなっていないとしたならなぜであろうか。
日本で言うところの新型インフルエンザは、現在、H5N1鳥インフルエンザ・ウイルスが変異して発生すると考えられている。海外では、ウイルスが変異してもしなくても、H5N1鳥インフルエンザと呼ばれる。英語では「H5N1 bird flu」である。これは明らかに固有名詞であり、独立した疾病単位である。
日本ではH5N1鳥インフルエンザは、人の感染症を意味せず、あくまでも鳥の感染症である。それは農水省管轄の”家きん”における感染症であるとの考え方が、国やマスコミの間に強いからだ。
そしてウイルスが変異して人から人へ容易に感染するようになると、新型インフルエンザと表現する。
ここで話は”ややこしく”なるが、H5N1鳥インフルエンザに人が感染して発病した場合、日本の感染症法では二類感染症に区分され、人の感染症として、それなりの法的規制を受ける。
そして新型インフルエンザは、それとは別に区分され、色々な法的規制を受けることになる。要するにH5N1鳥インフルエンザと新型インフルエンザは別個な疾病単位として、感染症法上扱われているのだ。もちろん人での感染症としてだ。
しかし、H5N1鳥インフルエンザと新型インフルエンザに境目はなく、ウイルスの変異状況で、前者から後者にシームレスに移行する可能性がある。要するに法的に区分は難しいとも言える。
保健所関係者の中には、「H5N1ウイルス?それは鳥でのインフルエンザですね。人では心配ないですよ」、等と寝ぼけた言い方をする人も多い。
じゃ、鳥インフルエンザでなく、新型インフルエンザになったら心配すればよいのですね、と確かめ、それは保健所で教えてくれるのですか、と尋ねると相手は、そのときは国から通知がくると思います、と、これまた寝ぼけたことを言う。
そして鳥インフルエンザのことは、農水省か都道府県の農政部に聞いてください、と言って、公務員お得意の責任回避街道に向かうのだ。
でもH5N1鳥インフルエンザに関しては、日本では人での発病はまず起きなく、通常家きんでの発生である。
そう言うことから農水省が主管する感染症となるが、それが人に感染した場合、スムーズに厚労省が対応出来れば良いが、両省の間に綿密な情報交換が行われていない限り、タイムラグが生じることも懸念される。
鳥インフルエンザが世界的に人の間に拡がり、世界で1億人、日本国内で210万人死亡したとき、適切な固有名詞をWHOはつけるはずだ。通常はウイルスが初めて見つかった地名を付ける。
例えばインドネシア・インフルエンザとか、青島(チンタオ)・インフルエンザとか、またはバルチック・インフルエンザ(ドイツ北方の島、アジアの名前ばかりつけるのは気がひける故。しかし、白鳥からH5N1ウイルスが見つかっている)とかである。
そして数十年後に、現在のスペイン・インフルエンザのように、あのバルチック・インフルエンザは酷かったよねぇ、等と語り継がれることになるのである。
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