先見創意の会 (株)日本医療総合研究所 経営相談
MENU
 
コラム
今週のテーマ
(掲載日 2008.11.04)

 「将来的にも現役世代の収入の半分を確保する」

 04年年金改革の時の小泉政権の公約だ。今回は、これがいかに表面的なものだったかを検証したい。

 まずは、この図@を見てほしい。

 「給付水準の下限50%は、標準的な年金受給世帯についての水準であり、世帯類型や所得によって所得代替率は違ってきます」

 厚労省自身による50%維持の説明だが、冒頭からこのように50%は特殊な場合にしか維持されないことを白状している。

  標準的な世帯とあるではないかとの反論が聞こえてきそうだが、そういう方は、こちらの図Aを見ていただきたい。

 右上の枠の中の注にあるのが厚労省の言う「標準的な世帯」だ。40年間平均的な収入を得て、妻がその間全て専業主婦だった世帯だが、こんな世帯類型がどこにあるというのか。また、所得比例のはずの年金給付で、なぜ、所得の前提を置く必要があるのか。

 世帯は前回でも説明したように、妻の基礎年金で給付を底上げするためのトリックだが、所得の置き方は、厚生年金の問題を解くカギになるので、この点を解明していこう。

 図@の下のグラフを見てほしい。これは、現役世代の所得と「代替率」との相関を示したものだ。

 書かれていないが、X軸は所得の平均で、Y軸は代替率となる。左から3分の1ぐらいにある縦の点線が平均的な年収の12分の1の位置。年金保険料は総報酬制になってボーナスにもかかるので、月給ではないのだが、こんなものを示されてもイメージがわかない。

 おまけに、分母になる所得は、現役世代の平均なので、もともと、比較するものではない。だからX軸にメモリが明記されていない。

 話がそれたが、04年度の現役世代の平均的な年収は472万円で、2025年度はそれが566万円になると試算している。

 ところが、その人の受け取る年金額は23.3万円から23.7万円とほぼ横ばい。その結果、代替率は04年度の59.3%が50.2%になるという。

 実質的に15.3%のカットをするというのが改革の正体なのだが、それは少子化で仕方がない。現役世代の半分は維持するから勘弁してほしい、というのが公約だったわけだ。

 しかし、グラフを右にずらすと代替率は落ちる。年収786万円の人は45.9%が38.9%となる。逆に、左にずらすと代替率は上がる。

 年収262万円の人は86.3%が73.0%になるが、比較的高い。この年収で、妻は専業主婦という非現実的な数字だが、厚生年金制度の理解には役立つ試算だと思って我慢してほしい。

 これには、基礎年金が夫婦で2人分入っていることが影響する。所得が高い人も低い人も基礎年金額は同額だからだ。

 図Aで見るように、標準的な世帯の年金額は、3分の2が基礎年金だ。平均的な年収を続けてきた人でさえ、3分の2の保険料は基礎年金のために払ってきた結果になる。だから、収入が多い人は代替率が低く、収入が少ない人は代替率が高くなる。

 ということは、厚生年金といっても、多くが基礎年金を支えるために保険料を支払っているということになる。加入者が減り、保険料の支払いが事実上任意となっている国民年金が持っているのも、厚生年金からの支援があるためだ。

 そもそも、基礎年金が国民年金と同じで、その保険料が14,410円だとするなら、厚生年金保険料も、それを前提にして決めるべきだ。

 ところが、基礎年金は国民共通と言っていながら、厚生年金保険料のうち、いくらが基礎年金の保険料として取られているかさえ示されていない。どうして、これが透明でわかりやすい制度だと言えるのだろうか。

 さらに、図@のグラフで、給料が増えても年金額が増えないことに疑問を持った方も多いだろう。

 年金制度は、給料が上がっても給付は増えない「マクロ経済スライド」が04年改革で導入された。少子化が進む中で、みんなで支えて、給付額は減らさないということだが、これは、給料が上がっていくことが前提になっている。

 長期的に年2.1%で上がっていくというのだが、04年以降、サラリーマンの給料は下がり続けている。今回の不景気でさらに下がることが避けられない。

 いまのままでは、このおめでたい試算もまったくの絵に描いたモチになり、さらなる給付カットに進むことが避けられない。

 すでに、厚生年金をはじめとした国の年金制度は、破綻している。厚労省は、数字のマジックで国民をごまかすことをせずに、間違いやごまかしを認め、国民のための年金制度改革を1日も早く始めるべきだ。

javascriptの使用をonにしてリロードしてください。
コラムニスト一覧
(C)2005-2006 shin-senken-soui no kai all rights reserved.