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(掲載日 2008.11.25) |
「在宅医療」「在宅介護」。実に響きの良い言葉だ。何も好き好んで入院患者や入所者が病院や介護保険施設に長期間居座っているわけではない。多くは「自宅に戻り、家族と時間を共有したい」と思っている。
だが、それを叶える社会的な基盤が脆弱では、いくら美辞麗句を並べ、退院・退所を促しても前には進まない。
政府は、手を変え、品を変え、平均在院日数の短縮を促しているが、最近の施策をみると、もはや“追い出し”に近い。患者サイドから見れば、「医療崩壊」は、何も産科医療や救急医療に限らない。
■介護保険も
横浜市の女性会社員Aさんは「母が病院から在宅療養を勧められたが、足腰が弱いうえ、膀胱や腎臓ほか、目や耳も悪い。私が勤めに出れば、日中、母は一人。本当に自宅で療養できるのか、心配で…」と漏らす。
母親は要介護3。病院は介護保険施設への入所を勧めたが、空きがなく、当面、在宅介護サービスに頼るしかない。
Aさんが心配する理由は他にもある。
訪問介護サービスの利用を考えているが、土日を除く、週5日、身体介護と生活支援を期待したが、訪問介護事業者から「ヘルパーが足らないので、希望通りの曜日や時間帯に派遣できないこともある」と言われたからだ。「介護保険も頼りにならないのか」とAさんは不安を募らせている。
介護報酬改定のたびに、食事や掃除など単純な生活支援の報酬が引き下げられ、介護事業が採算割れを起こしている。
そもそもヘルパーが集まらない。介護職員の賃金は全産業労働者の6-7割程度、離職率は約2割。その結果、訪問介護事業所の約9割が介護職員不足に陥っている。
政府、与党は生活安心確保対策として次期改定で報酬を3%引き上げ、介護職員の確保を重点的に行う方針だが、それで足りるか?
■逃げるな
厚生労働省は、“医療費の適正化”の名の下に、療養病床の再編・削減を進める一方、在宅医療と在宅介護の充実を強調している。だが、核家族や単身世帯が増え、自宅での療養・介護は極めて難しいというのが実態だ。
批判をかわすつもりなのか、厚労省は廃止する療養病床を“暫定版・老人保健施設”として転用してもオーケーとした。ここでも「それでも暫定版・老健の方が金がかからない」との金勘定が透けて見える。
公的年金をマクロ経済スライドで実質目減りさせるシステムを導入し、入院患者・入所者からホテルコストや食費の一部まで徴収するようになった。このままでは老後の不安はますます深刻となるだろう。
財政再建は必要だが、最低限必要な事業は確保すべきだ。在宅医療や在宅介護の充実に異論は少ない。野党挙げて財源問題から逃げていては、何も解決しない。
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