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(掲載日 2009.01.13)
 「元本保証で4.5%の金利がつきますからこの金融商品を買いませんか」

 いまどき、こんな営業をする銀行や証券会社があったら、すぐに金融庁から指導があることだろう。どう考えても無理な話なので、業務停止になってもおかしくない。

 ところが、厚労省はそれが許される。もちろん、金融庁の監督下にはないが、極めて非現実的な前提で商品設計しているのに、誰もそれを止めようとしない。それどころか、御用学者たちのお墨付きまでもらっている。これが国民的な損失につながることを説明したい。

 昨年11月、社会保障審議会年金部会の経済前提専門委員会が出した報告書がその「お墨付き」だ。

(1) 日本のサラリーマンの賃金が年率2.0〜3.0%で上がる
(2) 運用は年率3.6〜4.7%が達成される
(3) 物価は年1.0%しか上がらない

 賃金が毎年2%で上がるということは、5年後の初任給が1割上がることを意味する。個人が能力アップにともなって2%昇級するのではなく、同じぐらいの経験や評価の人が5年後に1割も高い給料をもらえるということだ。すでに死語とも言えるが、賃上げとベースアップでいえば、毎年2%のベースアップがあることになる。ましてや、3%となると、わずか3年でほぼ1割上がる。

 「100年に1度の不況」と言われ、派遣切りから始まって雇用不安が渦巻いているこの時期に、どうしてこのような突飛な前提が出てくるのだろうか。

 実は、この前提は、年金の財政計算のために作られたものだ。年金といえば少子化の影響を受けると考えている人が多いだろう。しかし、実際には、経済の影響のほうが直接的に影響する。なぜならば、いま生まれた子供が保険料を払い始めるのは、20年先のことだからだ。おまけに年金保険料は40年にもわたって払い続ける。

 ということは、仮に今年に生まれた子供が現在の20歳の人たちより5%少なかったとして、20年たったとしても、保険料を払う人の数への影響は0.125%でしかない。年功序列は薄れているとはいえ、働きはじめたばかりの人たちの給料はまだ低い。集まる保険料への影響は無視できる。さらに10年たったとして1.5%の影響だ。生まれる子供の数がいまより5%少ない状態が10年続いたとして、30年後にようやくこの影響なのだ。

 もちろん、少子化は社会的には大問題だが、年金問題の最優先問題ではない。むしろ、賃金が増えない問題のほうが大きい。なぜならば、2%上がるはずの賃金が5年にわたって横ばいだと、集まる保険料が想定よりも、いまの1割分少ないという事態になるためだ。

 それに対して、年金額は決まったものを出さないといけない。賃金が上がらなければ年金額も抑えられるが、2000年改革で、年金をもらい始めた人の年金額は現役の賃金の上昇を反映しないことになっているため、賃金が上がらない分だけ年金額も上がらないということはなくなっている。その結果、想定以上の積立金が取り崩されることになり、年金財政は悪化する。

 逆に言えば、将来の賃金や運用の利回りを高く設定すれば、年金財政をよく見せることができる。実際、07年の「暫定試算」は、04年の時の前提を上方修正し、賃金の上昇率は2.1%から2.5%まで約2割も上乗せされた。運用利回りについては3.2%から4.1%に引き上げられ、賃金上昇率との差が1.1%から1.6%に広がった。

 これでは、まじめに働くよりも運用をしていたほうがよいということになり、持つ者と持たざる者の格差を政府が追認することになりかねない。

 暫定試算では、07年の賃金上昇率を2.5%、08年は3.0%と見込んでいた。これだけ見てもいかにいい加減な試算だったかがわかるというものだ。

 こうまでして年金財政をよく見せたいのは何のためだろう。多くの専門家は、「100年安心」と大見得を切った2004年改革のためだろうと見る。その基準は、現役世代の収入の5割を維持することだ。年金は、記録問題などでこの数年、政治を揺るがせてきたが、政府の公約ともいえる5割が維持できないとなると、改めてクローズアップされることだろう。そう考えると、政治的な意向が働いていると勘ぐる人たちがいてもおかしくはない。

 楽観的な経済前提で年金財政をよく見せることは、将来につけを回す。これは国民から見ると年金財政の「粉飾」としか言いようがない。年金に対する信頼をさらに揺るがせて、老後の大切な支えである年金制度自体がなくなることも心配しないといけなくなる。政府と自民党、公明党は、さっさとプライドを捨てて年金制度を抜本的に見直すべきだ。
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