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コラム
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(掲載日 2009.01.27)

 古くに開業し、患者と向き合い、愚直に診療を続けてきたドクター。

 患者や地域からの評判も良く、開業して数年後には顧問の税理士から医療法人化の提案を受ける。

 診療に追われる日々の中、医療法人について詳しく説明を聞く時間も無く、指導を受けるままに医療法人化。

 医療法人化後も患者は順調に増え、2人の子供にも恵まれた。1人はドクターの道を歩んでくれ、自分の医院を引き継ぐ意志を持ってくれている。

 そんな中、妻が病に倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまう。 自分の年齢も考えると、いよいよ息子へのバトンタッチを意識・・・・。

その矢先・・・日頃の無理が祟ったか、身体を壊し、入院、そして、人生の幕を閉じてしまう。 残された子供2人は、49日を過ぎた頃、とある会話をする。  

長男「そういえば、お父さんの相続税を計算して、申告しなければならないなあ」

次男「お父さんの医院の顧問をしてくれていた税理士にお願いするのがいいんじゃないかな?」

長男「そうだな。お願いしよう。」

 早速、兄弟は、父の顧問税理士に相談する。 税理士からの相続税の試算結果は、概ね次のような内容であった。
医療法人の出資持分 5億円
自宅           1億円
金融資産等       1億円

 父が診療に邁進してきた結果、出資持分の価値が想像以上に膨らんでしまっていることが明らかになる。この結果を受けて、兄弟は話す。   

長男「医療法人の出資持分が高いなあ。これは、お父さんの医院の株だよね。随分と高い金額だなあ」

次男「その一方で、お父さんは、あまり派手な投資とか運用とかを好まなかったから、遺産はシンプルだね」

長男「どう分けるかだけど、自分はお父さんの医院を引き継いでいるんだから、医療法人の出資持分を承継させてもらわないと困るよ。それでいいだろ?」

次男「いや、兄さん。自分にだって相続人としての権利があるはずだ。全体で7億円の財産のうちお兄さん一人で5億円を持って行くのはおかしくない?・・・」

長男「医院を引き継がないのに、もらってどうするんだ?」

次男「調べたらね、医療法人の出資持分には払戻請求権が認められているらしいよ。つまり、医療法人に買い取ってくれっていう権利。換金価値があるんだから、兄さん独占はおかしいよ」

長男「相続してその権利を使って、医療法人に買い取らせるつもりか?・・・」

次男「うん。自分は医者ではないけれど、相続人としての権利があるからね」

長男「・・・・」

 こんな会話から始まった遺産分割は、その後、双方が弁護士を立てて争う、“争族”に発展し、現在、泥沼の様相を呈している・・・。兄弟が以前のような仲を取り戻すのは望むべくもない。

■どう分けるか

 私が、税理士として、相続、特にドクターの相続をお手伝いする場面で遺産分割が思わぬ課題となるケースは多々ある。

 例えば、この話のようにドクターが診察行為に邁進した結果、その成果が医療法人の出資持分に跳ね返り、相続税の評価額が非常に高くなってしまう。その一方で、個人の資産の形成が思ったよりも進まない。

 そのため、個人の財産バランスを見たときに非常にアンバランスな状態になってしまう(個人の資産全体のうち出資持分の占める割合が高くなってしまう)ためである。

 このような財産バランスのまま、いざ相続を迎えると病医院の後継者が相続すべき財産とそれ以外の者が相続すべき財産のアンバランスに繋がり、結果、“争族”をもたらす。

 私が思うに、“争族”は多くの人が傷つき、そして、その傷が癒えない類の争いの1つだ。

■出資持分は後継者に

 医療法人の出資持分は、配当がもらえない、売るに売れない財産、すなわち、医療法人を承継する者以外にとって経済的メリットはほとんどない。 

 その一方で出資持分には、医療法人に対する払戻請求権が認められており、この払戻請求権を行使されると医療法人は出資者に対して財産の払戻を行わなければならない。その結果、医療法人の経営を脅かす事態を招く可能性もある。

 医療法人を承継しない者が出資持分を持ってしまった場合には、どうするだろう?

 経済的メリットがほとんどないのであるから・・・この払戻請求権の行使を考えるのではなかろうか。

 このようなことを考えると医療法人の出資持分は、医療法人を承継する後継者に集中して相続させた方が良いといえる。

 実は、この問題は医療法人だけでなく、一般事業会社にも起こり得る問題である。

 その点、一般事業会社については、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」により、本年3月以降、事業後継者に株式を集中承継しやすくする制度が施行され、解決策が提示されている。が・・・その制度、医療法人は仲間はずれである。

 相続の問題は、とかく相続税に注目が集まりがちであるが、「どのように分けるか」についても、大変な問題であることをお伝えしたい。
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