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コラム
今週のテーマ
(掲載日 2009.02.24)

 ■医療従事者の雇用関係の多様化

 労働者派遣法が改正され、従来、派遣の対象外とされていた医療従事者についても限定的ながら労働者派遣(医療過疎地への派遣など)が認められるようになった。背景には深刻な医師不足や医療過疎地の存在がある。

また、特定の病院で働くのではなく、数多くの病院を転々とするフリー(非常勤)医師の存在もクローズアップされるようになってきた。健康診断での問診・聴診等を行う医師や麻酔医の世界でフリー医師化がもっとも進んでいるようである。

 特に、フリーの麻酔医の中には、常勤の麻酔医よりも短い勤務時間で多額の報酬を得る者もいるようで、フリー医師は「割のいい」働き方らしい。

■労働法制

 もともと労働法制は常勤の正規雇用者を重視する伝統がある。戦前、労働者の弱い立場に乗じて賃金をピンハネしたり、雇用責任を果たさず劣悪な労働条件で働かせたりといった事例が多かったため、労働者供給事業と労働者派遣事業は禁止されていた(労働者供給事業とは、労働者を雇用せずに継続的な支配関係において他人に使用させることを言い、労働者と雇用関係に入った上で、当該労働者を他人に使用させる労働者派遣とは区別される)。

 現在では、労働市場の多様化や雇用の需給調整の安全弁としての「便利さ」に目を付けた経済界の要求に応ずる形で、労働者派遣が解禁され、その間口が徐々に広がっている現状がある(労働者供給事業は未だに禁止)。

 ただ、労働者派遣の間口を広げ、例えば製造業における派遣事業を解禁したものの、今回の不況で「派遣切り」が広がったために、元々懸念されていた問題点が現実のものとなって噴出し、経済界の要求に安易に応じたことへの反省と対応が始まっている。

■フリー医師と労働者供給事業

 医療界では、深刻な医師不足に加えて、医局制度の機能不全もあって、医療従事者の需給アンマッチは他の産業界と較べてもいっそう深刻である。

 したがって、労働者派遣や労働市場の流動化には強いニーズがあり、最近の労働者派遣の一部解禁の動きを超えて、冒頭で述べたようなフリー医師が増えているという実態がある。

 このフリー医師の実態を見ると、紹介先と雇用関係を結び、継続的な雇用関係の下で医業を行うというものではなく、全く単発のアルバイトを繰り返すという実態のようである。

 これは、労働法制(正確には職業安定法44条)が禁じている労働者供給事業に該当するのではなかろうか。

 法律が労働者供給事業を禁止した趣旨は、弱い立場にある労働者を継続的に支配下に置いて、劣悪な労働環境で労働を強制したり、ピンハネをしたりすることを防ぐ点にあった。

 したがって、売り手市場の医療界においては、このような心配はいらないという意見もありそうである。

■フリー医師の問題点

 しかし、フリー医師と病院との関係は、極めて曖昧という実態がある。短期の関係であるために、両者の間で書面の契約が取り交わされることもなく、明確な法的立場が明らかにされないまま事実上の関係として医療の提供が行われているのである。

 これでは、いざ医療事故が起きたりした場合に、懲戒権の有無や責任の所在が曖昧になり、患者に対する救済が充分に果たされなかったり、病院が過重な負担を強いられる危険もある。

 そもそも紹介元と雇用関係がなければ、フリー医師が今どこにいるのか、どのようにして責任追及すればよいのかも分からないような状態が生じてもおかしくはない。

 また、医業は非常にセンシティブな個人情報を扱う業種であるが、明確な取り決めなしでは個人情報の漏えいのリスクも考えられる。

 施術上のことは分からないが、特に麻酔医などは、全身状態の管理を行う役割を担うので、経過観察をせずに、短期でそのときだけ患者に向き合ったのでは発見できない病態を見落とす危険はないのであろうか。

 それが致命的なミスにつながった場合、麻酔医の責任のみならず、そのような麻酔医を雇用又は準委任した病院の責任も問題となるのではなかろうか。

 そもそも一つ所に留まらず渡り歩いているのでは、先輩医師から医療技術を学ぶということができなくなり、医師として熟練する機会を得られないのではないか(有り体に言えばまともな医師になれるのか)という危惧も感ずる。

 また、今は医師不足が深刻で問題とならないが、時代は移りゆくもの、いつまでも今と同じ状態とは限らない。病院や紹介元の雇用責任が明確でないフリー医師の労働者としての立場は、実は非常に弱い。フリー医師の雇用問題が取りざたされる日が来ないとも限らない。

■課題

 今後、少なくともフリー医師を雇用したり準委任したりする病院側は、フリー医師との間で責任の所在や懲戒権を明確にした契約を書面で取り交わすべきであろう。

 また、政府は、このような実態を放置せず、労働者派遣事業の適用拡大や需給アンマッチの防止策などを講じて、法の網の下に医療従事者の適正な労働環境を整備する義務がある。

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