|
(掲載日 2009.03.31) |
■配偶者と相続
相続の世界では、被相続人の配偶者は大切に扱われる。
例えば、被相続人の配偶者には、民法による法定相続分として相続人最大の割合、具体的には被相続人の遺産の2分の1、すなわち半分が権利として認められている。
大切に取り扱われるのは、相続税においても同様である。
既に説明しているとおり、相続税は、相続人等が相続や遺贈により取得した遺産に課税される税金である。税金であるから、ルールに従って淡々と計算される。
そんな相続税の計算でも、被相続人の配偶者に対しては、人間味溢れる計算方式が適用される。その一例が、「配偶者に対する相続税額の軽減」といわれる制度である。
「配偶者に対する相続税額の軽減」とは、被相続人の配偶者が相続等により取得した遺産に対する相続税を、文字通り、軽減する措置をいう。
具体的には、配偶者が取得した遺産が法定相続分(2分の1)の範囲内、あるいは1億6,000万円までの範囲内であれば、配偶者は相続税を納める必要がないという制度である。この制度は、相続税を軽減する制度であるから相当な優遇措置であることは間違いない。
被相続人の配偶者に対してこのような制度が設けられた背景には、夫婦共有財産という考え方がある。つまり、相続税が課税されるだけの遺産を被相続人が形成し、維持できたのは、配偶者の深い協力があったからだと考え、配偶者については、一定の範囲で相続税は払わなくても良い仕組みにしたということである。
夫婦共有財産の考え方に異論のある方もいらっしゃるかもしれないが、この制度は、たとえ、仮面夫婦であっても有効に働くということを付け加えておきたい。ドライな税金の世界においては非常に人間味の溢れる制度といえる。
■制度を使うか否か
「配偶者に対する相続税額の軽減」は、相続税の計算上、非常に有利に働くことは間違いないのであるが、活用方法によっては逆に不利になる場合もある。
「えっ!? 税金が安くなるのに?」 と思われるかもしれないが、「配偶者に対する相続税額の軽減」は、被相続人の配偶者に認められている制度(例えば、理事長が亡くなった場合には、理事長の奥様に認められている制度)であるということが鍵である。
この制度を活用して、理事長が亡くなった場合に、奥様が理事長の遺産の2分の1、つまり法定相続分に応じた額を相続したとする。この場合、法定相続分の範囲内での遺産取得であるため、「配偶者に対する相続税額の軽減」によって配偶者に対して相続税は生じない。
しかし、次に理事長の遺産の半分を取得した奥様が亡くなった場合はどうなるか?
奥様が再婚でもしない限り、配偶者は存在しないため、「配偶者に対する相続税額の軽減」の適用はない。その結果、奥様の遺産を相続する後継者にまともに相続税がかかってしまうことになる。後継者からすれば、大きな荷物がどんと落ちてくるようなものだ。
例えば、医療法人の出資持分を奥様が相続した場合を考えて欲しい。「配偶者に対する相続税額の軽減」により奥様が支払う相続税は軽減できる(前述したとおり相続税が生じない場合もある)。
その後、医療法人の経営を引き継いだ後継者の頑張りで医療法人の出資持分の価値が上昇したらどうだろう?奥様に相続が発生すれば、医療法人の出資持分は後継者が相続する。
もちろん、「配偶者に対する相続税額の軽減」の適用はない。この場合、最初から後継者が相続していれば価値の上昇分に相続税が課税されることはない。後継者からすれば、自分の頑張りの結果、多額の相続税を払わなければならないとなればいかにも虚しい。
■相続税は2度やってくる
『相続税は2度やってくる』と言われる。これは、「配偶者に対する相続税額の軽減」の適用を受けるために配偶者に半分の遺産を相続させた場合、次の世代である後継者達が理事長の遺産の全てを相続するためには、理事長、そして、配偶者の2回の相続が必要であるというである。
しかしながら、目先の相続税負担を少なくしようと考えて、配偶者に遺産を相続させた場合、次に訪れる配偶者の相続の際には「配偶者に対する相続税額の軽減」の適用がないため、思わぬ税負担が生じる場合がある。
特に配偶者自身が相続する遺産以外の財産(配偶者固有の財産)を多額に持っている場合や将来値上がりが見込まれる財産を相続させる場合は、注意が必要である。
「配偶者に対する相続税額の軽減」の適用を受けることで、却って2度の相続を通じた相続税負担が増え、不利になってしまうことがあるためだ。
このように「配偶者に対する相続税額の軽減」の適用を受けるか否かについては、ご自身の相続だけでなく、次に訪れる配偶者の相続も含めたところで検討を進める必要がある。
もっといえば、相続や医業承継は、ファミリーの問題でという認識で事前に慎重に準備を進めることが肝要である。
一見、大きな優遇措置に見える「配偶者に対する相続税額の軽減」であっても、こんな落とし穴がある。
相続は一生に一度あるかないかのことであるから、慣れている人間はそういない。このように税の問題も慎重な対応が必要である。
『相続税は2度やってくる』、映画のキャッチコピーみたいではあるが、相続を考える上での重要な合言葉としていただきたい。
|
|
|
|