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コラム
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(掲載日 2009.04.07)

 世界は、北朝鮮のミサイル、または人工衛星発射問題で現在揺れ動いている。さらに同国における核の開発問題も以前から不明瞭だ。

 米国のブッシュ大統領時代、北朝鮮やイラク、そしてアルカイダ等の組織が、大量破壊兵器(Weapons of mass destruction:生物兵器、化学兵器、核兵器、放射能兵器)を保有している疑いが、世界の懸案事項の中心を占めた。

 そうした不安が、我が国で、平成15年6月に国民保護法、すなわち「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」の成立となったことは記憶に新しい。

 大量破壊兵器は元来、これらの世界のマイナーな途上国や組織により、テロを行うために開発されてきたわけではなく、米国や他の先進国でも兵器として開発されているのは周知の事実である。

 大量破壊兵器でも、目に見えるものはまだいい。 目に見えない兵器として生物兵器がある。それは見えないだけ、ある意味では核以上に危険であると筆者は考えている。

 2001年に、アメリカで同時多発テロ事件直後に生物テロに利用された炭疽菌は、感染すると極めて致死率が高い。当時我が国にも多大の恐怖感を与え、多くの地域で白い粉が見つかるたびに炭疽菌によるテロが疑われ、感染予防装具を身に着けた機動隊が出動した。全てはアメリカの事件を真似した悪戯だったようだ。

 生物兵器の恐ろしさは目に見えないということの他に、それが有害物質であるのか否かを瞬時に見分ける方法がないことも上げられる。

 さらに1980年に地球上から封じ込められた天然痘ウイルスも、生物兵器としての危険性を有している。天然痘は感染すると致死率は高く、古代から流行するたびに多くの人々が死亡してきた。

 天然痘ウイルスが生物兵器として使用された場合に備えて、このウイルスに対するワクチンもある程度備蓄されているし、米国では軍隊でも必要に応じて接種されている。

 このウイルスは現在米国CDC(疾病予防管理センター)とロシア国立ウィルス学・バイオテクノロジー研究センター(VECTOR)のレベル4施設で厳重に管理されているが、ソ連崩壊の際に一部が持ち出されたとする噂もある。

 炭疽菌や天然痘ウイルス以上に恐い生物兵器としてパンデミック・インフルエンザウイルスがあることが意外と知られていない。日本で言うところの新型インフルエンザウイルスである。

 インフルエンザウイルスは遺伝子操作が容易なようだ。既に多くの遺伝子組み換え実験が行われ、どのような遺伝子の組み合わせでスペイン・インフルエンザウイルスが誕生するか、さらには現在東南アジアを中心として発生しているH5N1鳥インフルエンザウイルスの遺伝子も、各種の人インフルエンザウイルスの遺伝子と置き換えられ、H5N1ウイルスがどのように変化したなら、人に容易に感染する人インフルエンザウイルスとしての性格を有するようになるかの研究もされている。

 例えば、昨年12月29日に米国国立科学アカデミー紀要に掲載された、東大医科学研究所の河岡博士と米国の研究チームの共同研究では、通常流行しているH1N1ソ連型インフルエンザウイルスの遺伝子を、かっての死者から分離され、再構築されたスペインインフルエンザウイルスの遺伝子と3種類入れ替えると、H1N1ソ連型ウイルスは、非常に病原性が高くなることが証明された。それは実験動物であるフェレットを用いて証明されている。

 また、非常に恐い事件として、世界的製薬企業のバクスター社のオーストリア支社が、チェコ共和国の研究所に送った人の香港型インフルエンザに対する実験用ワクチンに、誤ってH5N1鳥インフルエンザウイルスが混入されていたことが、この2月に判明した。

 当該ワクチンを接種しても、死亡するはずのないフェレットが全例死亡したことから気がついたようだ。

 幸い関係者や他の実験動物に感染はしなかったようではあるが、ワクチン作成用に製薬企業が入手している危険なH5N1ウイルスが、いとも簡単にこのような流出事故、または汚染事故を起こしたということは、非常に危険な状況がウイルス研究の領域に存在していることが示唆された。

 一昨年、インドネシアのスパリ保健省大臣は本を出版したが、その中で彼女は、インドネシアで分離されたH5N1鳥インフルエンザウイルスがWHOから米国に渡され、米国はそれを生物兵器として改造していると主張し、多くの議論がわき起こった。

 スパリ大臣は、それ以前から自国で患者から分離されたウイルスを、WHOに提供することを拒んでいた。

 理由はウイルスが先進国の製薬企業に渡され、ワクチンや抗インフルエンザ薬開発に利用されているが、製造された製品はインドネシア等の途上国では高価で購入出来ず、それはWHOの保健施策上、非常に不公平なことであるというのが理由であった。

 さらに同女史の主張は、そこから米国における生物兵器論に問題は発展したようであるが、その真実は別として、新型インフルエンザウイルスの生物兵器化の危険性を国際的にアピールする結果にもなった。

 確かにインフルエンザウイルスの遺伝子組み換えによっては、天然痘以上の危険なウイルスが誕生させられ得る。現在、インドネシアのH5N1ウイルスは人に感染した場合、致死率は80%を超える。

 このウイルスの遺伝子は、明らかに鳥インフルエンザウイルスの性格を持っているから、通常では人に感染することはない。発病している例は、極めて希なケースであり、もしかしたなら遺伝的に脆弱性を持った家系の人々である可能性もある。

 しかし、人のインフルエンザウイルスとの遺伝子組み換えが色々な研究室で行われているとしたなら、実際に人に容易に感染しうるH5N1ウイルスが誕生している可能性も否定できない。

 そうした研究を監視している国際機関はないだろうし、研究論文の発表で知り得る内容は、行われている研究全体の氷山の一角に過ぎない。

 WHOを初めとして多くの専門家が、”パンデミック・インフルエンザ”は、いつ発生するか分からないと警告し続けているが、その発生が、自然経過によるものだけではなく、人為的に作成されたウイルスの漏出事故、または生物兵器としての使用により起きえることも、充分念頭に置く必要がある。

 米国は2005年にH5N1ウイルスに対するプレパンデミックワクチンを数百万人分フランスのメーカーに作らせて備蓄しているし、中国やロシアでもプレパンデミックワクチンは開発され、ある程度備蓄されている。

 そうした備蓄の目的には、H5N1ウイルスが生物兵器化された場合に”対応生物兵器”として用いることも、当然、含まれているのである。

 
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