先見創意の会 (株)日本医療総合研究所 経営相談
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コラム
今週のテーマ
(掲載日 2009.05.19)

 地方自治体の財政難もあって、自治体立病院のうち指定管理者制度の対象になるものが散見されます。関りのある医療法人がその募集に応じ指定されました。その経過の一端をご紹介し、この制度について考察してみたいと存じます。

 その病院は九州の大都市に所在し、その自治体が保有する病院(複数)の経営改善の検討の中で指定管理者制度の対象と決められたものです。

 病院経営難の背景は、料金収入の減少−その大半は入院収益の減少―が平成15年度を境に毎年続いたことです。

(入院収益の減少の主たる原因は、病床利用率の低下による入院延患者数の減。入院実患者数はほぼ横這いながら平均在院日数が短縮したことにより入院収益が減少)それから、医師不足が休診や診療科の縮小を招き、結果として医業収益の減につながったとのことです。

 立て直しに当たり、病院共通の取り組みは盛りだくさんです。(項目のみご紹介します)

1 患者中心の医療の推進 
(1)クリニカルパスの活用 (2)インフォームドコンセントの充実 (3)セカンドオピニオン外来の設置 (4)地域医療機関との連携強化 (5)待ち時間の短縮 (6)患者満足度の向上 (7)医療安全対策の充実

2 柔軟で意欲の高い組織作り
(1)医師の確保(参考までに、詳細項目を掲げておきます。・大学医局への働きかけ強化 ・医師の臨床研修の充実 ・医師の事務的業務の軽減、短時間勤務等の多様な勤務形態、子育て支援 ・医師個人の病院事業への貢献度等を反映した給与制度の導入)
(2)人材育成 ア医師の臨床研修の充実 イ医療スタッフの資質向上 ウ市立病院間の連携 エ経営感覚に優れた人材の活用 
(3)医療スタッフの配置の見直し
(4)勤務体制の見直し
(5)病院長の権限強化

3 経営改善の推進
(1)医業収益の向上 ア平均在院日数の短縮と病床利用率の向上 イ病床数の見直し 
(2)一般会計からの繰入金の見直し(独立採算の徹底) 
(3)診療材料等の効率的な購入 
(4)医療機器の計画的整備 
(5)施設の維持管理経費の節減 
(6)未収金対策の推進
(7)財産の有効活用
(8)人件費の縮減(参考:給与制度について、すでに、特殊勤務手当の廃止、給与のフラット化、退職手当支給率の見直しなどは実施)

 その上で、指定管理者制度を導入する狙いは、"柔軟な民間ノウハウの活用"と述べています。

 しかし、上に羅列した改善項目を超える項目があるのでしょうか?(あえて言うならば、健康診断、特定保健指導(メタボ対策)の体制整備が落ちているくらいでしょう)

 結局、既述の改善策の実施にあたり、"民間ノウハウ“を活用するしかないのでしょう。それにしても、民間ノウハウとは何なのでしょう。

 ズバリ、公務員制度から離れること?
・公務員給与体系とは違う(実質は低い水準となる)給与体系の導入
・職員組合の縛り(協約・慣行・馴れ合いなど)から外れること
・自治体立である故に存在していた近隣医療機関への遠慮などを捨てて、いわば、なりふり構わず患者や家族へ働きかけ、また、近隣機関との連携を提案すること

 現実には、応募を腹に決めた段階から、当該医療法人の責任者は市の病院局及び対象となる病院事務局とかなり本音ベースの話し合いを重ねました。

(単に、募集条件を満足する作文を提出しただけとは違います。具体的な成果の一つは、結核病床の確保を条件づけられていたのですが、これには年限を限ってとのことながら、一般会計から補助金がでることとなりました。)

 問題である人件費を巡っては、この病院が指定管理者制度の対象と決まってから、特に医師はやめて開業、他の市立病院へ異動などで7名のうち3名が去られました(もちろん、指定後早速、医療法人から2名、大学医局から1名補充し、体制の維持を図りました)。

 他職種の人は、指定管理者となる医療法人の給与体系などを勘案し、去就を決めたようです。この病院の人材はいわば他の市立病院からの吹き溜まり的存在、去られても指定管理者はむしろありがたいくらいと受け止めています。

(引き継ぎ時点で向こう3カ年は現給与水準維持が義務付けられていますので、異動者は同じ市立病院ながら指定管理者制度のもとで働くことをよしとしなかったとも考えられます)

 当面の課題である医師確保については、指定管理者となった医療法人側は、相変わらず、医局や知り合いを訪ね歩いています。

 他職種は、公務員資格を必要としないことが幸いし、近隣住民の資格保有者が結構応募してきて、現時点での勢力図は、既存の在籍者、医療法人からの異動者、新規採用者それぞれ3分の1ずつとなっています。

 改善点は、公務員の無気力性の除去、法令基準は順守するが過剰人員は削減、改善に対する積極的な意欲や地域奉仕への理念が醸成されることでしょうか。いいかえれば、「経営」が行われ始めているということでしょうか。

 それにしても、現状維持を絶対の条件とし、各種「料金」水準も現行水準を条例で縛っておいて「民間」に一体何をしろというのでしょうか。

 かなりの部分を包括的に委任し、原則的には自由裁量とし、結果を厳しく評価し、結果責任を問う構えが取られてしかるべきかと思いました。

(そこまで任せられないよと、民間に不信感を抱いているのなら、まずは、このような制度を導入しないこと、次に、事業遂行を委任するならあらかじめ委任先を十分審査し、信頼に足る相手にゆだねる。自らの委託責任を問われるのが嫌なばかりに、がんじがらめにすることは本末転倒といわざるを得ない。)

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