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コラム
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(掲載日 2009.06.16)

 5月9日、成田空港の検疫所でインフルエンザA(H1N1)、いわゆるブタインフルエンザに感染した、カナダ帰りの高校の修学旅行生が見つかった。そして桝添厚生労働大臣の緊張した表情での記者発表が行われた。

 大臣は妙な発言をした。
 「早めに発見し、早めに薬を飲むと治るから、同じ飛行機に乗っていた人で発熱などの異常を呈した場合は、すぐ保健所に届け出るように…」。

 筆者は驚いた。

 えぇ! いつこの軽症のインフルエンザA(H1N1)が、早めに薬を飲まなければ治らない感染症になったのだろか???
 もしかして、大臣はH5N1鳥インフルエンザと誤解しているのだろうか?

 元来政治学者であった大臣だから仕方がないとはしても、側にまともな専門家はいないのだろうか、と筆者は気になった。

 しかし、その後のマスコミの動きは凄まじかった。

 以下は、筆者が主宰するウエブサイト「鳥及び新型インフルエンザ海外直近情報」の、5月10日付けの日記からの抜粋である。筆者の驚きと、マスコミに対する落胆の思いが集約されている。多分、この日はアクセス数は1万件を超えていた筈だ。  

 久しぶりに獲物にありついたかのごとく、多くのマスコミは「新型インフルエンザ」なるものに食らいついた。

 政府の閣僚会議よろしく、新聞社の編集委員会(と言うのか知らぬが)で密かに記事プレゼンの方針が練られる。

 そこでは、いかに我が日本国民の安寧のため(社会生活の平穏な維持)の記事作りではなく、いかに他社よりもインパクトのある内容にするか論議される。

 企業や自治体等のBCP(継続計画)は、危機発生時における社会安寧を目的にしている。

 僕は新聞社のBCPいう内容なのかと疑問に思った。

 新型インフルエンザなるものが発生したとき、一般社会にどのような記事を流すのが、マスコミの社会安寧を目的としたBCPになっているのか、ふと疑問に思ったのだ。

 単に他社と競争するように記事の掲載合戦をするのが、危機発生時のマスコミの役割と考えているのだろうか?

 マスコミの新型インフルエンザ発生時の役割は正しい情報を伝え、一般社会の平穏に向かうべきエネルギーの源となるべきと、僕は思っている。

 しかし、現在のマスコミは、新型インフルエンザに群がる、新型インフルエンザグッズを販売する企業と何等変わらない姿勢を感じる。

 なりふり構わない報道の中には、非科学的記事や、煽りを目的としたような記事も目につきだしている。

 僕の所に取材の電話をよこす記者は多い。  僕は自分の思う真実を多く語ってきた。  しかし紙面の流れは全然異なってきた。

 一例を挙げる。

 マスクは、一般市民がインフルエンザ予防に着用しても効果があるという医科学的根拠は得られていない。最近の米国CDCでも、着用することには反対はしてないが、着用することで感染予防効果を過信する危険性を懸念している。

 カナダでも米国でも、マスクはそれほど着用してないと思う。

 しかし、今回感染者が見つかった高校生が、カナダでマスクを着用していなかったことを非難する報道が見られる。

 これは危険だ。

 多くの日本人が慣習に基づき、マスクを着用してもそれは構わない。しかし、高校生達がマスクを着用しなかったから、インフルエンザに感染したのだ、と決めつけるような報道には呆れるし、怖さも感じる。

 高校生達がマスクを着けていなかったから感染したのではない。

 ニュージーランドでも同じように修学旅行で高校生達と教師が感染した。 ニューヨークの高校でも起きている。

 そこでは感染した高校生を周囲で誰も責めないし、ましては校長が記者会見で謝る等ということはあり得ない。何も彼等は悪いことをしたのではないからだ。

 日本では、感染した高校生や引率者、修学旅行に出した学校を責めるような報道、またはそのような市民の反応を伝える光景がマスコミを賑わした。

 報道は集団ヒステリーを起こすエネルギー源ともなるし、日本の報道は未だその域を出ていないのかも知れない。

 米国で言えば、西部開拓時代の頃であって、手製の新聞で、人々は簡単に集団ヒステリーを起こし、魔女狩りを行い、気に入らない人を吊した。

 報道機関は集団ヒステリーを起こさせるために、記事を社会に送り出しているのだろうか?

 社の方針を決めている編集委員の考え方は分からない。しかし出来てくる記事を見ていると、集団ヒステリーを社会に起こすことが出来る自分たちの能力に酔っているような雰囲気すら感じられる。

 この日、僕は日記を書き終えた後に、突然燃え尽きたように体内からエネルギーが消えてゆくような錯覚を覚えた。

 毎日、数時間費やしてウエブサイト「鳥及び新型インフルエンザ海外直近情報」を維持している。

 海外の新型インフルエンザ関連情報を翻訳して紹介してきた。日に数千から2万件に上るアクセス数がある。国、自治体、マスコミ、企業、一般家庭等から多くの人々が情報を求めてやってきている。

 しかし、この集団ヒステリーを起こさせるマスコミの力に、僕は、個人一人の持つ力がどれほどのものかを十分知った。

 多くの若い記者達が取材で電話をしてきた。

 自分達は何が出来るのか、今、どのような報道をすれば良いのか、悩んでいる記者も多かった。

 しかし、マスコミという巨大なエネルギーをもった怪物に、若い記者達も太刀打ち出来ないようだった。

 互いに情報競争する姿勢を身に着けてしまったマスコミ。 情報はマスコミで加工され、そして市場に出荷されてゆくのだ。

 加工の基準は、正義等という青臭さの残ったものではなく、視聴者の興味をどれだけ惹きつけることが出来るかということであるが、真実性という多少の付加価値も伴わせたい気持ちも残ってはいるようだ。

 新型インフルエンザA(H1N1)は、今後、どのように変遷してゆくのか、未だ分からない。

 日本のマスコミがその報道に、多少でも正義という付加価値を付けてくれるようになったなら、社会における新型インフルエンザ対策も、実効性あるものに変わってゆくような気がしている。

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