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(掲載日 2009.06.23)

■出資持分払戻請求権

 出資持分の定めのある社団医療法人の定款には、通常、次のような定めが置かれている。
「第●条 社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる」
この規定に基づいて、医療法人から払戻しを受ける権利を「払戻請求権」という。

 「払戻請求権」に係るトラブルで有名なのが、いわゆる「八王子判決」である。

■八王子判決

 「八王子判決」を簡単に整理する。

 とある医療法人A会の理事長Bが亡くなった。Bの有していた医療法人A会の出資持分は、亡くなったBの妻であるCが相続した。

 Bの妻であるCは、実際、医療法人経営に関与が無かったこと及び今後も関与する予定がなかったことなどの事情により、医療法人A会の出資持分を有していても仕方が無いとの判断(実際には、理事長を引き継いだご子息との関係も良くなかったという事情もある)から、医療法人A会に対して、出資持分の払戻請求権を行使した。

 Cは、医療法人A会に対して、当時の純資産額にCの有する出資持分の割合に応じた金額である37億4900万円を請求した。ちなみに、Cの有する出資持分の額面金額は1087万1469円だったので、実に額面金額の344倍もの金額を請求したことになる。

 医療法人A会は、業暦も長く、業績も良かったことから、多額の内部留保が蓄積され、前述のとおり、医療法人の純資産額をベースに出資持分の割合に応じた金額を計算すると37億4900万円になってしまったのであろう(実はこの裁判の争点は、Cによる払戻請求権行使の直前に行われた出資額限度法人への定款変更の有効性であり、裁判所は定款変更そのものは有効との判断を下し、その定款に従えば、払戻金額は額面である1087万1469円となった)。

 このケースは、極端なケースと言えるかもしれないが、医療法人の出資者には、払戻請求権があり、その権利が行使されれば、医療法人の経営に甚大な影響を及ぼす可能性があるということを示している。

■出資持分の経済的メリット

 以前から繰り返しているが、医療法人の出資持分、それ自体には、経済的メリットは全くないと言っていい。配当はもらえないし、市場で売却することもできない。しかしながら、相続税は、そんな出資持分に価値を見出して、相続税を課税する。

 先ほどのケースのように、医療法人経営の当事者でもないCにとっては、出資持分を相続してしまうことで「相続税を払わなければならない⇒でも売れない⇒持ち続けても配当ももらえない⇒自分が死んでしまったらまた相続税が課税される・・・・」

 このように考えれば、払戻請求権を行使して、換金してしまいたいという思いに至るのも仕方がないのかもしれない。

 つまり、医療法人の出資持分は、医療法人経営の当事者でなければ、持っていることにほとんど意味を見出せないどころか、負担ばかりを強いられる財産なのである。

■経営当事者でない者が承継した場合

 先日、ある方から相談を受けた。

 昔、医療法人経営者である父親から医療法人の出資持分を相続した。医療法人は医師である兄が理事長を務めることになったが、自分は医師ではなく、兄の邪魔をしてはと医療法人経営に全く関与してこなかった。

 兄の医療法人は順調な経営を続けているが、ふと自分の年齢を考えたときに相続のことが頭をよぎる。そういえば、自分が父親から相続した出資持分の価値はどのくらいになっているのだろう。

 案の定、試算をしてみると莫大な金額の評価額になっている。でも、自分は普通のサラリーマン生活をしてきたので、人並みの財産しかない。しかし、自分が死んだら医療法人の出資持分という形の無い財産に対してとんでもない相続税が課税されてしまう。どうしたらいいだろう?

 父親の兄弟仲良くという思いで分割承継された医療法人の出資持分が思わぬ問題を引き起こした事例である。

 考えられる対応策は、払戻請求権の行使や兄に買い取ってもらうなど限定的な手段にならざるを得ない。

 この相談を受けて、医療法人の出資持分は、医療法人を経営する当事者に承継させることが大切であるということを再認識した。

 厚生労働省は、医療法の改正によって、出資持分の定めをなくしたが、経過措置により既存の医療法人の多くが出資持分の定めのある医療法人である。

 自身の医療法人の出資持分を取り巻くリスクをきちんと整理し、時間をかけて対策を行うことをお薦めしたい。

 ※八王子判決の部分で出資額限度法人への定款変更を行い、結果として額面が払戻金額となった旨の記述があるが、現行税制では、出資額限度法人に移行し、額面での払い戻しを受けると他の出資者に課税が生じる場合がある、つまり、相続税の問題の解決にはならないので留意願いたい。
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