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(掲載日 2009.07.14)

〜2000億円は無駄になりかねない〜

「新型インフルエンザの影響により航空需要が大幅に落ち込んでおり、今月26日にも資金繰りに困難を来す見込み」

  6月第3週の週末、国交省が作った「日本航空の経営改善について」と題する説明資料には、ナショナル・フラッグ・キャリアーが崖っぷちに追い込まれていることを示す文言が並んでいた。

 国交省は、このペーパーで官邸にJALの窮状を説明。22日の週に、政策投資銀行による2000億円の「危機対応融資」が決まった。

 政府によるJAL支援をふりかえっておこう。
2001年 
同時テロで政策投資銀行から緊急融資
(2年間で)
1540億円
2003年 
イラク戦争などで政投銀から緊急融資
(2年間で)
1160億円
2007年 
政投銀から追加融資
711億円
2008年 
政投銀から第三者割当増資
1515億円
合計 
4926億円

 すでに、国民は、JALに5000億円もつぎ込んでいる。さらに2000億円も融資しようという話だが、国交省は脇目もふらずに支援に突っ走る。

「この融資が実行されない場合には、日本航空の資金繰りに困難が生じ、国政上の重要課題である我が国の航空ネットワークの維持・充実に多大な支障が生ずることとなる」

 などと官邸を脅し、

「国土交通省としては、こうした国政上の重要課題である航空ネットワークの維持・充実における日本航空の重要性を踏まえ、同社の経営改善に向けた取組みを強力に指導・監督し・・・、責任を持って対応する方針」

 と、「国政上の重要課題」を連発し、まるでいまの経営危機が自分と関係がない善意の第三者のような姿勢だ。

 では、JALは安心して貸せる先なのか。

 答えは、大手銀行が出している。

 08年3月期の有価証券報告書で長期借入金を見てみよう。

 政投銀の残高は2778億円だが、民間銀行で最も多い三菱東京UFJ銀行は663億円、みずほコーポレート銀行は561億円、三井住友銀行は291億円という具合で、政投銀が結果的にメインバンクとなり、あとは逃げていく、いわゆるメイン寄せが進んでいる。

 この点については、さすがの説明ペーパーも、

「財務省は、・・・国土交通省が、12月の融資段階において政策投資銀行の融資比率を可能な限り減少させるべく交渉を行うこと、を条件として、追加融資に応じることはやむをえないとしている」(融資は6月と8月に1000億、12月に1000億を予定)

と、認めている。しかし、国交省に言われて、銀行がJALへの融資を増やすだろうか。

 JALの経営内容について、公認会計士の細野祐二氏が6月30日発売の「ZAITEN」で展開した分析に注目すべきだ。

▼ 09年3月期の純資産は1967億円で、前期比、マイナス58%
▼ 繰延ヘッジ損益に2018億円の含み損

 繰延ヘッジ損とは、デリバティブなどの金融商品の含み損だが、細野氏によると、ジェット燃料を大量に先物で手当したのではないかと見る。原油燃料の暴落の影響をもろにかぶった形だ。この含み損解消のために、JALの競争力は大きくそがれるだろう。

 それ以外にも、簿外の退職債務が巨額で、実質債務超過の状態にあるというのが細野氏の分析だが、興味がある方は同誌をお読みいただきたい。

 いずれにしても、このようなJALに政投銀が融資する妥当性があるのか、もっと考えなければいけないのだが、とにかく、資金繰りに窮したJALに泣きつかれた国交省が財務省を説得して官邸を動かしたのが今回の「危機対応融資」だ。

 もし、JALがこのまま離陸できずに破綻すると、そのつけは国民に回る。秋には民主党政権が誕生する可能性が高いようだが、その時の政権はさっそく、12月の融資をどうするか、決断を迫られることになるだろう。
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