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コラム
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(掲載日 2009.07.21)

 平成21年度政府補正予算案が5月29日成立。これに盛り込まれた経済危機対策のうち、「介護基盤の緊急整備」として、平成23年度末までに約16万人分の介護施設や地域介護拠点の整備を目標とする特別対策を実施することとなった。

 厚労省担当課長は全国会議において、「現下の経済・雇用情勢のなか、介護機能強化と雇用創出が緊急に求められていること、特別養護老人ホームの入所申し込み者が多数にのぼること、群馬県の『たまゆら』の火災事故の背景として施設の整備の不十分さを指摘する意見があること等をふまえて」、特別対策事業を実施することになったと説明。

 その内容は、小規模(定員29人以下)入所施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、ケアハウス)のほか、認知症高齢者グループホーム、小規模多機能型居宅介護、認知症対策型デイサービスセンター、夜間対応型訪問介護の整備である。なお、第4期介護保険事業計画との関係については、計画を上回る部分は「別枠」とするとされた。

 政府は、平成20年12月24日、「持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた中期プログラム」で「小規模多機能型やグループホーム」拡充(2025年までに60万人《20人規模×3万か所》の整備計画)の工程表を閣議決定しているが、今回の緊急整備においても、その趣旨は貫かれていると考えられる。

(なぜここまで通常型の入所施設の整備を嫌うのかをよく理解できない・・・。特別養護老人ホームを例にとると、80人規模で採算ベースに乗るのは、これまでの実績で明らかであるのだけれど。緊急整備を前面に出すのであれば、関係者が喜んで整備に乗り出すように条件設定するのがむしろ常識。必要な政策を素直に実施するのが普通の政策マンのとるべき策と思うが、今の政府や霞が関は普通ではないのだろうか。)

■現状
  1. 在宅対策を主に対応した結果は、特養待機者が45万人、といわれている。そして、次のような現象が現れている。

    ≪老老介護≫
    65歳以上の高齢者が高齢者介護する世帯・・・・・48%
    介護者が75歳以上の高齢者・・・・・・・・・・・34%

    ≪認認介護≫
    認知症の高齢者が同じく認知症の高齢者を介護

    ≪介護離職≫
    家族の介護のため離職した者・・・・・・・・14.5万人

    ≪介護給付費の割高化≫
    小規模多機能型=特養の45%高 グループホーム=25%高


  2. 群馬県渋川市の老人施設「たまゆら」で火災・死亡事故発生(本年3月19日)。事件の背景として、@入居していた要介護高齢者の半数以上が東京・墨田区の生活保護者であり、福祉事務所からの斡旋であった、A老人ホームと称しながら、実態は無許可・無届の施設であった、BNPO法人の経営でありながら、杜撰かつ劣悪な運営・設備であったことなどが挙げられている。


  3. 4月30日時点で、有料老人ホームに該当可能性のある施設は、全国で525件、446件は未届けのまま。国は、都道府県に対し、早急に届け出を励行させるよう要請。


  4. 今国会で、高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法・平成13年成立)の改正が行われ、国土交通大臣と厚生労働大臣の共管となり、住宅施策と福祉施策の連携を行うこととなった。都道府県が計画を作り、高齢者生活支援施設と一体となった高齢者向け優良賃貸住宅の供給、円滑入居の促進、生活支援サービスの提供などが行われることとなった。


■2015年の高齢社会像
  • 団塊の世代が65〜74歳に達し、高齢者人口の「ピーク前夜」


  • 高齢者世帯は約1,700万世帯、そのうちの33%約570万世帯が一人暮らし世帯。


  • 認知症高齢者が250万人(現在150万人)


  • 今後、急速に高齢化するのは首都圏をはじめとする「都市部」。高齢単身世帯の増加もあり、住まいの問題を含め、どこで、だれが面倒をみるのか、が大きな問題となる。

■対応策の提案
  1. まず、現状把握から。@「はこ」の実情は、建築確認、固定資産税評価、消防法の規制などを連携させる。これらの情報を結合することにより、市町村単位で、「はこ」を把握。A「ひと」の把握は、住民登録、警察調査、福祉事務所(ケースワーカー・民生委員)が横に連携。国勢調査も活用。つまり、市町村役場の縦割りを排除すれば、実態把握はほぼ可能となる。


  2. 民間ベースでどこに空きがあるかは、街の不動産屋が一番よく知っている。調査を市町村から依頼し(依頼料支払いタダ働きとしない)、家主と調整し、斡旋させる。


  3. 生活支援、安心確保のため、地域ごとに互助組織を編成(助け合いのための“5人組”)


  4. 高齢者向け優良賃貸住宅を標榜制とし、市町村に届け出で、確認できたら固定資産税を軽減する、などの方策を講じる。


  5. 高齢者に対する生活保護の迅速・適正な適用(扶養要件、資産要件(年寄りから思い出の資産や物品を奪わない)の緩和を図る)


  6. 東京都は医療費適正化計画の中で、平成18年10月現在で21,033床の療養病床を平成24年度末で28,077床まで増やす計画を立てた。療養病床再編とは一体何だったのか!と叫びたいくらいだが、都は急速な高齢化を前提に安心できる受け皿としても必要量の療養病床は確保しておかなければならない、といっている。つまり、地域の実情に応じたバランスのとれた施策の展開が必要ということに尽きる。在宅対策に偏することなく、また、小規模多機能型や個室ユニットだけを重視することなく弾力的な取り組みこそが求められる。
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