先見創意の会 (株)日本医療総合研究所 経営相談
MENU
 
コラム
今週のテーマ
(掲載日 2009.08.25)

 筆者は報道機関の役割は、社会に利益をもたらす情報を伝えることだと思っている。

 それはあくまでも”根拠に基づいた報道”であるべきで、”一般社会に納得されるための報道”であっては良くないと考える。

 場合によっては、一般社会に納得はされない報道もありえる。そうでなければ報道は単なる”エンターテインメント”的情報提供の媒体物となる。

 新型インフルエンザ報道に関して、筆者が現在非常に気になっているのは、国が現在の新型インフルエンザ対策を大幅に緩和して、季節性インフルエンザと同等の対策への変更を発表した6月19日以降の報道内容である。

 それまで過激な程に多かった新型インフルエンザ関連記事は、それを契機に突然減少し始めて、それはもはや国内では重要な報道ではないような錯覚を一般社会に植え付けてしまった。しかし、海外では感染者数は増加の一途を辿っていて、米国では秋までに流行は続き、冬期間に入ってからさらに爆発的流行を懸念する報道が相次いでいる。

 国内でも間違いなく感染者数は増え続けているが、報道では発生した事実だけが小さなニュースとして取り扱われている。感染者の発生がどのような意味があるのか、一般社会では、全く報道内容からは知ることが出来ない。ただ軽症であることだけが強調された記事に終わっている。

 そうした情報は社会に利益をもたらしているのであろうか。筆者は気になる。

 一般社会は今後の新型インフルエンザの流行継続、または大流行への対策を講じなくても良いのであろうか。報道内容にはそのような啓発的文章が含まれているべきではないだろうか。現状を科学的に解説する国からの発表もないことが、そうした報道機関の対応となっているのかも知れない。

 8月に入って欧米各国では新型インフルエンザに対するワクチンの臨床試験が開始されている。欧米以外でも中国で国産ワクチンを用いた試験が始まっている。その目的はワクチンの安全性と効果、さらに接種回数の確認である。1回で十分の免疫効果があるのか、または2回の接種が必要なのかを決定する必要がある。多くの専門家は2回接種が必要と考えているが、高齢者を中心にある程度の免疫が存在する可能性もあり、そうした場合は1回の接種でも十分となる。

 このような情報は、7月下旬から欧米の報道では頻繁にニュースとして世界中に流されている。

 しかし我が国の状況は、あまり明確に伝えられていない。国産メーカー4社で6月から製造が始まっていると聞くが、材料となるウイルスの増殖が悪いため、1700万人分しか製造可能でなく、そのために2000万人分を海外のメーカーから購入する予定と、7月中旬に報道されてはいた。

 しかしワクチン接種の意義、その対象者、接種時期などに対する報道は8月第3週に入ってもされていない。報道は総選挙にかかり切りになっているかのようにも思える。
 今回、新型インフルエンザ流行に際して、国内の報道機関が問われている課題は以下の通りと筆者は考えている。
  • 新型インフルエンザに関して、科学的に伝えているか?
  • その情報は根拠に基づいているか?
  • 国の発表には科学性があるか? それに対する批判は記事の中に含まれているか?
  • 海外の状況を十分とらえて、国内の状況を記事にしているか? または欧米の対策と国内の対策の違いに気づいているか?
  • 新型インフルエンザの最近の状況を理解しているか?
  • 報道内容は一般社会に利益をもたらしていると考えているか?
javascriptの使用をonにしてリロードしてください。
コラムニスト一覧
(C)2005-2006 shin-senken-soui no kai all rights reserved.