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コラム
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(掲載日 2009.11.03)

 10月16日、WHOは専門家会議の結果、H1N1インフルエンザウイルスの最近の状況を発表した。また米国CDC(疾病管理予防センター)も、国内の状況を発表した。その中でこれまではあまり見えていなかったH1N1インフルエンザの素顔が、垣間見られるようになった。

 18日のワシントンポスト紙が総括的にまとめたので、その中から重要なポイントを訳して、当方のウエブサイトに掲載したので、今回はそれを転載する。
  • 新型インフルエンザ(ブタインフルエンザ)が世界中に広がる中、非常に重篤な症例が発生しだしていて、ウイルスが若い健康的人々に対して、より危険性を保有していることが示されだした。
  • H1N1インフルエンザは、通常のインフルエンザ以上に、重篤で生命的予後に影響するウイルス性肺炎を起こすことが明かとなり、WHOは16日、医療機関では重症患者の急増に備えるように、そして医師達には疑い例には迅速に抗インフルエンザ薬を投与するように警告を出した。
  • 専門家達はH1N1ウイルスに感染する人々の大多数は、発症しないか、または容易に回復すると強調している。しかし中には、若年成人、特に女性が短時間で重症化し、ICUへの入院が必要とされ、しかし、高率に死亡することが知られてきている。
  • なぜ感染者の一部が重篤化するのか原因は分かっていないが、最近の研究でH1N1ウイルスは他の季節性インフルエンザウイルスとは全く異なる様式で肺の奥に感染して、ウイルス性肺炎を引き起こすことが知られている。
  • 「季節性インフルエンザとは異なる」、とWHOのニッキ・シンドウ医師は、ワシントンでWHOが主催した専門家会議での結論として語った。
  • 「このウイルスは、それまで健康だった若い成人に非常に重篤な症状を引き起こす」と、付け加えた。

  • 一方、米国CDCは16日、ワクチン製造状況は予定よりも遅れていると発表した。当局では10月下旬まで4000万接種量が入荷すると予定していたが、実際には1000万から1200万接種量が不足する状況であると、CDCの国立ワクチンセンターのアン・シュチャット長官が語った。
  • 「最終的には、希望者全員にワクチン投与は可能であるが、この2〜3週間は入荷量が十分でない可能性が高い」、と同長官は語った。
  • これまで1140万接種量が入荷し、さらに国は800万接種量を発注しているが、大量の入荷は11月になる予定であると、シュチャット長官は語っている。

  • WHOが16日に警告を発したが、同時に米国CDCも国内での流行の拡大が41州に及んだことを発表した。小児の死亡数が合計86人となったことも発表した。
  • これまでウイルスは、季節性インフルエンザウイルス以上に感染性が高く、さらに致死性も高いとは考えられていなかった。しかし重篤化する感染者の病態は、典型的季節性インフルエンザのそれとは全く異なる。高齢者は通常のインフルエンザに感染し易く、かつ重篤化する傾向が強いが、このH1N1ウイルスに対しては、概して発病しずらい。一方小児、ティーンエイジャー、妊婦、若年成人、はもっとも発病しやすい。

  • 季節性インフルエンザウイルスは通常上気道に感染する。しかし、最近の動物実験や100例近い死亡者の剖検所見から、このH1N1ウイルスが上気道と肺に感染することが示されている。上気道への感染は、その場所で増えたウイルスが周辺へ感染を起こしやすいことを意味しているが、肺へ感染する様式は、現在アジアに存在している鳥インフルエンザウイルス(H5N1)に似ている。ウイルス性肺炎を多発することになる。
  • 死者の肺で異常な程多くのウイルスが増殖している。鳥インフルエンザに似ている。言ってみれば”新しい怪獣のようなものだ”。CDCの感染症病理部門の主任であるシェリフ・ザキ博士がそのように語っている。

  • ICUでの治療を受けた患者の約三分の一が細菌性肺炎を併発していたが、H1N1ウイルスの肺細胞への感染傾向は、季節性インフルエンザ以上に、生命的予後を危うくするウイルス性肺炎を引き起こしやすい。
  • 「小集団ではあるが、非常に重篤なウイルス性肺炎を起こすことが、このインフルエンザの特徴である」、とシンドウ医師は語った。
  • どの程度の頻度で重篤な肺炎が起きるのか分かっていないが、最近のメキシコやカナダ、米国、オーストラリア、およびニュージーランドで得られたデータでは、感染者(発病者)の1%が入院を必要とし、その12〜30%がICU治療を必要とし、そしてその15〜40%が死亡している。
  • この春に米国で入院した患者の三分の二は、他の医学的基礎疾患を保有していたが、今週発表したCDCの報告では1400人の入院患者のうち半数は、問題となる重篤な健康問題は保有していなかった。
  • 世界での状況を見ると三分の一の死亡者、または重篤化した患者では心臓病や肺疾患、慢性腎臓疾患等の危険因子があったが、残りの症例では軽症喘息、高血圧、高コレステロール血症、肥満等の直接重症化に結びつかない基礎疾患しか認められていない。
  • 「これらの人々は我々と何も違わない」、とカナダのマニトバ大学の感染症部門のアーノルド・クマル准教授が語っている。
  • 重症患者の中には、必ずしも問題となる基礎疾患を保有していない死亡者も多いことから、その重症化を予知する方法は、現在はない。

  • 妊婦が感染すると危険であることは知られているが、最近得られた知見によると、理由は不明であるが、女性の方が重篤化しやすく、女性であることがリスクファクターと考えられだしている。
  • 「女性、特に若い女性が有意に発病しやすいことは疑問の予知はないことだ」、とクマル准教授が語っている。同准教授は、女性が保有する脂肪が、感染が起きた場合、危険な炎症反応を刺激すると考えているようだ。
  • 発症後直ぐに重篤化する人々もいて、酸素マスク、人工呼吸器さらに、通常は用いられない医療的手技が、発熱や咳、痛みが発生して数日以内に必要となっている。
  • 「進行の速さは驚くほどだ」、とメルボルンのアルフレッド病院のICU担当責任者が語っている。
  • オーストラリアやニュージーランドでは、ECMO(人工肺)と呼ばれる、通常はあまり用いられない治療方法を重症患者に医師達は用いた。血を体外に出して二酸化炭素を除去して、酸素を注入して、再び血液を戻す方法である。
  • 「これは極めて希な治療方法である」、とオーストラリアのロイヤルペルス病院のスティーブ・ウエブ臨床准教授がコメントしている。

  • 米国では、これまでH1N1で死亡した18歳以下の小児のうち、11人がこの1週間で占めている。またこの1ヶ月で死亡した半数はティーンエイジャーである。
  • 8月30日以来、43人の小児が死亡しているが、2歳以下が3人、2〜4歳が5人、5〜11歳が16人、12〜17歳が19人と、CDCのシュチャット博士は説明している。
  • 「極めて異常な事態だ」と同博士は語っている。通常の季節性インフルエンザでは、例年40〜50人程度の小児の死亡しか発生していない。
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