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コラム
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(掲載日 2009.01.05)

 国内では、新型インフルエンザの流行は既にピークを過ぎて、小康状態に向かっている。カナダや米国ではピークは11月初旬に迎え、現在は流行は終息状態にある。感染者数は、例年のこの時期の季節性インフルエンザの発生程度か、それ以下に落ち着いている。

 北米や英国では5月から7月にかけて最初の流行があり、8月に入ってから下火となったが、その後9月からの新学期開始と共に再流行が起きている。最初の流行を第1波、そして秋からの流行を第2波と欧米では呼んでいるが、第2波はカナダと米国では予想以上に大きく、第1波の数倍以上の感染者数を出した。しかし、第一波で季節性インフルエンザ以上の感染者数を出していた英国では、逆に第2波は非常に小さかった。保健省では秋の新学期開始後に大きな第2波が発生するから、十分な対策を講じるように頻回に警告していたが、実際に発生した第2波の小ささは、そのような警告が逆に”煽り”と捉えられ、国民の信頼感を失う状況になったようだ。英国の場合、第1波で集団免疫がある程度出来たため、第2波は小さく終わったのではないかと筆者は推定している。

 日本では5月から8月まで緩徐に感染者数は増え続け、それが秋の新学期開始と共に一気に学童の間で拡大した。その感染者数は例年の冬期間の季節性インフルエンザのそれを軽く超えた。欧米で言うところの第2波が日本でも9月から12月に発生した感がある。しかし、5月の第1波からシームレスに第2波に移行したと考えるべきか、それとも実際には、第1波しか起きていないとするべきか判断は難しい。日本のマスコミでは、これまでの国内の流行をまとめて第1波と表現する場合が多く、続いて起きる可能性のある流行を第2波としている。第2波や第3波等を一括して再流行とする言い方もあるが、筆者はその表現の方が妥当性があるように考えている。

 北半球の多くの国でこのA/H1N1インフルエンザの第2波は終息傾向にあるが、今後冬期間に第3波として再流行するかどうかについての論議が、海外の専門家の間にはある。

 これまでの季節性インフルエンザは冬期間に流行する特性を持っているから、このA/H1N1も冬期間に再流行する可能性が高いと、極めて単純に警告する専門家も多い。

 しかし、そうした人々はA/H1N1インフルエンザの流行の特性を十分分析していない。

 2009年末にA/H1N1が流行している国はインド、パキスタン等の南アジア、トルコやイラン等の中東、アフリカのエジプトが上げられる。これらの国の気温は10から20度台が大半である。

 一方、リトアニアでは流行が終息しているが、気温は零度以下となっている。同じように最高気温が0度以下の北欧も流行は下火に向かっており、また凍てつくロシアも感染者数は減少しだしていると報告されている。気温が低下してきている英国も感染者数は例年のインフルエンザ並となっている。流行が終息したカナダも気温は低い。中国でも北部では早期に流行は下火に向かい、南部では現在も流行は続いているようだ。

 こうした事実から考えると、北半球で昨年秋から流行し12月には下火となったA/H1N1インフルエンザの特性として、必ずしも低気温で感染力が増すことは上げられない。

 それは国内でも同じである。北海道では9月から10月に流行がピークで、その後は一気に感染者数は下降している。多分10度台後半から20度台前半の、北海道の初頭の秋の気温がこのA/H1N1ウイルスの活動には適していたようだ。

 インフルエンザは気温が下がると流行するという、一般的季節性インフルエンザで言われてきた”気温伝説”は、このA/H1N1ウイルスには当てはまらないようだ。

 国内の専門家の中には1月から2月の本格的冬に、再びA/H1N1インフルエンザが流行すると語る人も多い。しかし、それはあまりにも一般論的過ぎる。単なる経験論に過ぎない。前述したようにA/H1N1は、低気温下で感染力を増すとは言えないのである。

 さらにA/H1N1ウイルスは、その易感染層である5歳から14歳までの年齢層の半数以上で、既に感染したと考えられている。感染者は当然強い免疫を獲得している。また未感染者の中では、ワクチン接種を受けている子供も増えている。このように14歳以下の易感染層の6〜7割が既に免疫を獲得している可能性がある。

 気温が下がるとウイルスが活動性を減じる性質。易感染層の多くが免疫を既に保有している現状。こうした事実から考えると、国内ではA/H1N1インフルエンザは、今後しばらくは大きな流行は起こさないと判断出来る。

 しかしウイルスが次第に成人層へも感染を広げ出すという考えもあるが、それは可能性から言って否定的だ。

 このA/H1N1ウイルスは中高年に感染する率は極めて低い。何らかの免疫を保有しているからと以前から推定されている。最近の英国と米国CDCの研究チームの家庭内感染に関する調査研究でも、成人の感染率は低い。研究者達は成人層における免疫の存在を指摘している。この免疫は高齢になるほど強く、家庭内で小児から感染を受ける高齢者の数は非常に少ないとされる。

 しかしWHOや用心深い専門家は、ウイルスが変異して感染対象の年齢を広める可能性や、病原性を高める可能性を指摘して警告する。しかしこれはあくまでも確率の問題であって、その確率は極めて低いと筆者は敢えて指摘する。理由として過去に、明確にそのような事実が証明された事例はないからである。

 唯一スペインインフルエンザの際に、最初の第1波よりも第2波の方が病原性が高まり、多くの死者を出したとされる説があるが、第1波のウイルスは現存してないため確認のしようがない。(本当にインフルエンザウイルスだったのか等)、また日本のように第1波は経験してない地域もあったりして、第1波のウイルスが、第2波で変異して病原性を増したという証拠はない。むしろ第2波は冬に起きたので、細菌性肺炎の合併率が高かったために死者が多く出たとの考え方が最近では主流となりつつある。

 インフルエンザ流行予測は天気予報以上に難しい。それはウイルスが小さな変異を繰り返すということもあるが、感染をうける宿主である我々の身体の免疫状況でも流行程度は変わるからである。

 現在のA/H1N1インフルエンザが、新型インフルエンザとしては予想外に病原性が低く、また中高年層に感染しづらいのは、このウイルスの前身であるブタインフルエンザウイルスが10年以上も前から豚の間で時々発生していたため、意外と人の間でも免疫が獲得されていた可能性があることと、このブタインフルエンザウイルスの遺伝子には、スペインインフルエンザウイルスや香港インフルエンザウイルスの遺伝子が混じっていて、これもある程度、人の中に免疫が獲得されている理由と考えられる。

 これらの仮説については、まだ十分分析はされていない。しかし、いずれにしても「このA/H1N1ウイルスが、人がこれまで全く接触したことのない抗原で構成されたウイルスではない」ことに間違いはない。

 A/H1N1ウイルスの特性は未だ十分理解はされてないが、一般的季節性インフルエンザの特性を基本に流行予測を立てると、大きな誤差が生じることを筆者は指摘しておきたい。
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