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(掲載日 2009.01.12) |
大混乱の末、やっと平成22年度の税制改正の指針が示される「税制改正大綱」が公表された。歴史上、稀に見る難産であったが、今年の場合は最後の最後、しっかりと法律として示され、国会を通過するまでは分からない。
今回の税制改正では、消費税率の引き上げがクローズアップされることは少なかったが、長引く不況の影響により法人税などの税収が大幅に増える見込みがないことから、近い将来、消費税率の引き上げが議論されることは間違いないと思われる。
もし、消費税率が引き上げられれば、医療機関にとっての影響は甚大である。
今回は、医療機関と消費税の関係について整理したい。
■消費税の仕組み
消費税とは、文字どおり、“消費”に着目をして課税する税金である。つまり、物を購入したり、サービスの提供を受けたりした場合に、物を購入した消費者、サービスの提供を受けた消費者が納める。具体的には、物やサービスの価格に5%上乗せされる形で納めている。
市販の医薬品を例に消費税の仕組みを整理してみる。
製薬会社が卸会社に100円で医薬品を売った場合、その100円には5%相当額(5円)の消費税が上乗せされ、105円での販売となる。
105円で仕入れた卸会社はそれを200円で小売業者に売った場合、その200円には5%相当額(10円)の消費税が上乗せされ、210円での販売となる。
更に小売業者は210円で仕入れた医薬品を消費者に300円で売る場合、その300円には5%相当額(15円)が上乗せされ、315円での販売となる。
つまり、最終的に消費者が15円の消費税を負担していることになる。
この15円をどのように国に納めるかというと、消費者が納めるのではなく、それぞれの業者が納めることになる。
具体的には以下のようになる。
製薬会社 5円(売値100円の5%相当額)
卸会社 5円(売値200円の5%相当額−仕入値100円の5%相当額)
小売業者 5円(売値300円の5%相当額−仕入値200円の5%相当額)
合計 15円
つまり、物やサービスが動くそれぞれの段階で業者が売った時に預かった消費税と買った時(仕入れた時)に前の段階の業者に支払った消費税を差し引く計算が行われ、その差し引いた後の金額をそれぞれの段階の業者が支払うことで納税が完結する。ポイントは、前の段階の業者に支払った消費税を差し引くという点にある。
■保険診療等は非課税
医療機関の場合には、その収入の大半を占める保険診療等は消費税が非課税とされている。
つまり、医療機関の場合、最終消費者である患者からは消費税は預からない一方で、医薬品や診療材料などの物やサービスを購入する際には消費税を支払っている。
■損税の問題
前述のとおり、消費税は預かった消費税から仕入の際に支払った消費税を差し引きすることで納税額を計算する
この際、支払った消費税を無条件に差し引けるのではなく、消費税の課税売上割合(消費税を預かった売上がその業者の全売上に占める割合)分だけが差し引ける。
全ての売上が消費税を預かる売上である場合には、消費税の課税売上割合は100%となり、その業者が仕入などの際に支払った消費税を100%差し引くことができる。
医療機関に置き換えると、売上の大半が消費税を預かることができない(消費税が非課税である)保険診療等である場合が多く、課税売上割合が低くなることから、業者に支払った消費税を100%差し引くことは認められず、結果として差し引くことができなかった消費税は医療機関が自腹を切ることになる。これが損税といわれるものである。
この問題を解消するために、諸外国では消費税を非課税とするのではなく、0%の税率で0%の消費税を預かるという建前とし、できるだけ消費税を預かる売上を多くし、消費税を差し引ける仕組みを導入している。日本の場合には、そもそも財務省が複数税率の導入に消極的なことから制度化されていない。
■消費税のこれから
消費税は、三党の連立政権合意で「現行の消費税5%は据え置くこととし、今回の選挙において負託された政権担当期間中において、歳出の見直し等の努力を最大限行い、税率引き上げは行わない。」との方針を示していることから、合意が守られるのであれば、現政権下での消費税率の引き上げは行われない。しかしながら、多くの財政専門家が指摘するように将来、消費税率の引き上げの必要性が議論されることは間違いないと思われる。
消費税率が引き上げられると医療機関が仕入などの際に業者に支払う消費税も高くなる。消費税の計算方法の見直しが行われない限り、損税の額は大きくなり、医療機関の経営を圧迫することは目に見えている。
医療といういわば公的なサービスについて、消費税をどのように考えるか、引き上げ論が本格化してから議論を始めるのでは遅すぎるのではないだろうか。
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