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コラム
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(掲載日 2009.01.19)

  「私、泣きそう…」は、昨夏、死去した大原麗子が演じた寅さんシリーズ「噂の寅次郎」の中での名セリフ。一方、「私、泣きそうになってしまって…」は横浜の病院で働く若い女子会計担当職員の漏らした言葉だ。

  映画の方は、自ら望んだ離婚が決まった直後、「泣きそう」のセリフで女性の複雑な心境を表現した。個人的な話で恐縮だが、転勤先の封切館で初めて観た時、「(映画は)クサイ、セリフはいい!」と小声をあげてしまい、隣席の顰蹙を買ったことを今でも覚えている。

  さて本題。「泣きそうになってしまって…」の方は少しも良くない。女子職員の説明をドラマ風に再現すると経緯はこうなる。昨年9月中旬、女性職員は女性患者(81歳)に未払いになっている外来医療費を督促していた。そこに看護師が来て、「○○さん、先生から入院するようにと言われたでしょう。息子さんに連絡して」と伝えた。

  女性職員が、看護師に「この人、未払いがあるんですよ」と説明したところ、「このままでは危ないのよ」との返事。息子に電話したが、「仕事もないし、払えない」の一点張り。その間、女性は無言のまま、たたずんでいたという。

  12月初め、女性が窓口に現れ、千円札を4枚出し、「残りは年末までに必ずお払いします」と言い残し、病院を出ようとした。女子職員が追いかけ、「おばあちゃん、今日、診察は?」と聞くと、「もう、いいのよ」と言う。

  女子職員は、生活保護や医療費貸付制度など、知る限りの支援策を説明し、治療を続けるよう説得したが、女性は「死んだお父さん(夫)が、もう皆さんに迷惑をかけず、こっちに来いと言っているのよ」と支援を強く拒んだ。

  1月6日、珍しく息子から「母の未払い金はいくらあるのか」と連絡があった。金額や支払い方法を説明した後、容態を聞くと、「12月27日に死んだよ」。
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  国立社会保障・人口問題研究所の「2007年社会保障・人口問題基本調査」によると、「過去一年間に、健康でなかったが、(医療機関に)行くことができなかった」と答えた世帯は全世帯の2%。自己負担の割合が高いなど経済的な理由がトップを占めた。

  10年ぶりに診療報酬全体の引き上げが決まったが、医療現場では「長年の医療費抑制策で“焼け石に水”」との声が強い。必要な医療費は増やすのは当然だ。だが、診療報酬を引き上げるだけでは、片手落ちだ。公費を増やし、患者の窓口負担を軽くしないと、低所得の受診抑制がさらに悪化する。高額療養費制度があるが、自己限度額が低すぎる。
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