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(掲載日 2009.01.26) |
つい最近、NPO法人日本心身機能活性療法指導士会理事長 小川眞誠氏から「認知症が目に見えて良くなる改善プログラム」と云う標題の"衝撃"の事例集を頂戴した。
ご自身のご家族のいろいろな形の「死」を通して、命がなくなる直前まで、自分の力で体を動かし、家族とコミュニケーションをとり、交流でき、そして、生きる喜びや希望を持たせてあげられる環境を作りたいという思いを痛感し、心身機能活性運動療法にたどり着いたのだそうだ。
このプログラムは、
- 活性温熱療法(遠赤外線温熱装置で麦飯石の入ったマットを温め、手→肩→背→足→膝に当て、血流を良くする)
- フィンガースポーツ運動(道具を使い手指を挟む)
- フラハンド有酸素運動(特別な用具を用い手で輪回しのような運動を行う)
- ゲーゴールゲーム運動療法(ゲートボールからの発想のゴルフゲームや輪投げ)
- 回想療法(動物の声を聞かせ、絵を見せ、話す力と発声力、記憶力、書く能力の向上を目指す。)
からなる。
なお、フィンガースポーツとフラハンドは、アメリカのスポーツ医学博士エニー・バンガグー氏が開発したもの、ゲーゴールゲームと回想法はご本人が開発したとのこと。体を温めてから運動に入るというのは、ご本人がクリニックの事務局長を勤めていた経験から思いついた由。
認知症の人は往々にして、誰かにいじめられ心を閉ざしてしまったり、プライドを傷つけられ人間嫌いになっていることが多い。そこで、相手の気持ちを尊重し、優しく丁寧にプログラムを進め、心を開かせるように行う方針だそうだ。
実績は、岩手県水沢市の社会福祉法人寿水会で1994年10人を対象にデータをとり、厚労省にビデオを見せ、いいプログラムと評価されたとのこと。また、品川区荏原で高齢者介護教室を開き実践し、その結果を97年の公衆衛生学会で発表。95年には台湾で、03年には中国・上海で実施。
参考までに、上海市第2社会福利院での実績データを引用しておく。高齢認知症患者(平均年齢88歳)30例のうち、顕著な効果15例、有効12例、無効3例、有効率90%
この事例集に触発され、「もの忘れ」「ぼけ」「アルツハイマー」をキーワードとする本を数冊手にすることとなった。そこでわかったことをいくつかご紹介する。
まず、「認知症」という言葉は、厚生労働省が2004年度以降、法律や行政の用語として痴呆という病名を廃し、「認知症」という新語をこれに代わるものとして決めたもの。「一度獲得した知的機能が脳の病気によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態」を言う。つまり、脳の病的状態をいうのであって病名ではない。「認知症」という病名が学術用語として認知されているわけではない。
痴呆症状とは、「一度発達した精神の機能が、脳の器質的な障害によって全般的に低下する」ことをいい、痴呆性疾患とは、痴呆症状を起こす病気のことをいうわけ。アルツハイマー病とか、脳血管性痴呆とかいうのは、老年期に痴呆症状を引き起こす代表的な病気。
すなわち、小川氏は用語の使い方が正確ではないのではないか。
次に、痴呆性疾患の内訳は、東京都の1996年の調査では、アルツハイマー病が43.1%、脳血管性痴呆が30.1%。アルツハイマー病が増加し、生活習慣病に対する関心の高まりなどで脳卒中が減少傾向にありそのため脳血管性痴呆が減少してきていると考えられている。
痴呆性疾患に占める割合が増加傾向にあるアルツハイマー病は、もの忘れでいつとはなしに始まり、記憶の障害にとどまらず、判断力や言語機能などの大脳の高次機能が徐々に障害される脳の病気。いったん進行を始めると、これを止める良い方法が今のところない。初期には昔のことはよく覚えており意思の疎通は可能。5年くらいすると昔の記憶もあやしくなり、意思の疎通も困難となる。さらに進行すると、日常生活のほとんどに介助が必要となり、10年くらいで寝たきりになる。この病気が進むと、人間が人間らしくある部分が失われていくので、死ぬまで自分でいたいという望みは無残にも打ち砕かれる。
小川氏は、自分のプログラムでアルツハイマー病も改善するという。現在の定説からすると、どうも解せないところがあるように思える。
興味を引くのは、アルツハイマー病の発症と生活習慣は関連がありそうだというレポートがあることである。
- 中年期に高血圧や高コレステロール血症を治療しないで放置しておくと、高齢期に痴呆になりやすいというレポートがフィンランドから報告された。
- 1988年から97年にかけてヨーロッパでカルシューム拮抗薬ニトレンジピンの効能調査が行われ、痴呆に対する予防効果も検討。結果は、この薬剤で発症が強く抑制されるとわかった。
- スタチン系の抗コレステロール薬使用グループが他の薬剤を使用したグループに比し、アルツハイマー病の有病率が約70%抑制された。
どうも、魚を食べる、ビタミンEを含む食品をとる、週3回は汗ばむほどの運動をする、知的な生活を送る、知的好奇心を持つなどはお勧めのライフスタイルのようだ。
また、アルツハイマー病の治療には、薬物治療と非薬物治療があるが、後者の方は食生活と運動習慣は当てはまるし、知的作業を続けることがいいようだ。また、アートセラピー(臨床美術)、音楽療法もいい。積極的に仕事をし、人とかかわることが大切なようだ。
このことからすると、小川プログラムは正解かもしれない。
結論的には、熱心な試みの揚げ足を取らないでより科学的で安定的な内容にレベルアップする手助けをするべきということになろう。
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