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コラム
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(掲載日 2010.04.20)

 桜の花びらが舞う中、ようやくアジア癌連携研究の講座が、アカデミアの中にできた。

 「アジアがん」といっても、専門家の中でも具体的イメージの像も結べず、フォーカスを絞り切れないものだ。私もここ数年、人間支援工学に籍を置かせていただいて、フリーハンドの学術活動に携わってきたが、これで本来の目的の研究に従事できるようになった。

 講座の柱のひとつとなる、アジアがんフォーラムは、昨年の11月の第5回に続き、本年度は、東大に拠点を定めて、計5回の開催を予定している。そのうちの第7回は中国・シンセンにて、UICC世界癌会議に合わせて開催する準備を進めている。第5回の成果は、4月17日からのアメリカのAACRにて発表をしてくるが、「がんをグローバルヘルスにするにはなにをなすべきか」ということである。シンセンでは、それを受けて、情報の問題に軸を絞り、各国の研究者と議論を広げたいと考えている。

 東大の講座は、赤座英之教授のもと、おもに、分子標的薬等の抗がん剤のうち副作用や効果がアジア人に特有のプロファイルを示すものなどについて、ゲノム情報と臨床情報を比較検討して、人種特有の要因を洗い出したりすることを 課題としている。アジアにおいて、日中韓が連携をして、アカデミアでしかなしえない、長期的視野に立ったことをやっていくことを目指している。

 その動きとは別に、がん国際連携のための言説構築すらなされてこなかった経緯がある。新興国の疾病構造の変化に伴い、がんは国際保健の柱のひとつになることはあきらかにもかかわらず、がんの世界は、IARCやUICCなどは存在するものの世界的な力をもつ国際連携機関が存在しないためだ。がん医療国際連携の人材育成の基盤整備も、JICA、国際医療センターを中心とする旧来の国際保健の世界とは異なる世界ゆえに、医学部や国際関連機関での人材育成の方向性も、縦割り組織の中、連携がうまくできていないのが現状である。

 がんは感染症と違い、長い時間をかけて人間の暮らしに根付いてゆっくり病んでいくので、経済、文化、政治外交など幅広い要因を考慮せねばならない。したがって、国際保健の分野で、領域横断的に、国内外の様々な関係機関と「しなやかに、したたかに、しぶとく」連携を作り上げていくタイプの人材育成を目指さねばならない。

 旧来の国際保健分野で活躍するロールモデルは、欧州が得意とする語学に堪能で、フットワークが軽く、最貧国にいっても自分流の生き方で泳ぎきる、「一匹狼的逸材」が想定された。しかし、国際がん医療連携の旗艦となるべき人材として必要な資質は、明らかにそれとは異なる。この人材の質こそ、この領域の今後の発展のカギとなる。

 この分野は、世界的に見ても、領域としてのロールモデルもない。先行事例である、「国際保健分野の感染症領域での正統性の根拠のとり方」や、「環境分野のGLOBAL VALUEを目指すことがNATIONAL INTERESTになるという社会経済モデルの作り方」などを分析して、戦略構築をせねばならない。

 アジア連携を、NARROW NATIONAL INTEREST ではなく、GLOBAL VALUE としてやりきらないといけない。きれいごとが力をもつ時代である以上、その中から、国際がん医療連携のなかにおける日本の国益の中心はなにかを見つけていく作業をしていかねばと考えている。

 --- 河原ノリエ(東京大学先端科学技術研究センター 総合癌研究国際戦略推進講座 特任研究員)
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