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コラム
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(掲載日 2010.05.18)

■一般企業のガバナンス

 一般企業では、エンロン事件などを契機に、まずアメリカで企業統治に関する法制度の改革が始まり、日本でも雪印事件などの様々な企業不祥事を受けて平成17年(2005年)に商法の大改正が行われ、新しく会社法が制定され施行された。

 会社法では、日本の実態に合わせた自由な機関設計が組み込まれたほか、会社統治の方法をより精密にするための諸制度が設計されている。従来からある監査役の権限が強化されたり、会計参与が新設されたり、委員会という新たな機関設計が可能になったりした(※委員会制度は会社法以前の改正で組み込まれた)。また、財務報告の信頼性を確保するための内部統制活動を行うことが求められることになり、各社ともその対応に追われ、内部統制狂騒曲とでも言うべき現象が巻き起こったことも記憶に新しい。

■医療法人制度の改革

 医療法人でも、少し遅れて平成18年(2006年)に医療法の第5次改正が行われ、その制度設計に変更が加えられた。

 非営利性を徹底するための持分払戻方法の変更や、営利活動を行うことのできる社会医療法人制度の設立などが大きな柱ではあるが、ガバナンスの観点から見ても、定時社員総会の開催義務づけや、監事の職務権限明記、社会医療法人における役員や社員から親族を排除する制度、公認会計士等の監査義務づけなど重要な改革がなされている。

■改革は端緒に過ぎない

 しかし、これらの医療法の各規定を見ると、いずれも会社法の世界ではずいぶん前から制度的に組み込まれていた規定が多く、医療法人の世界におけるガバナンスは、まだ緒に就いたばかりという感を免れない。会社法のような精密な制度設計からはほど遠いものである。

 また、一般企業では、相当小さな企業でも有限会社や株式会社の形態を取っており、形骸化している面もあるが、それなりの会社統治の仕組みが組み込まれている。これに対し、医療機関の多くは医療法人にさえ成っておらず、医療機関の経営にはほとんど統治が及ばない実態がある。しかし、それらの医療機関に対しても、健康保険制度を通じて国民が拠出した金銭が大量に分与される仕組みとなっているのである。医療機関のステークホルダー(利害関係人)は、医療経営者のみではない。

■医療法人の実態

 医療法人化されている医療機関でも、事態はそれほど変わらない。従来型の医療法人では、理事会は経営者の親族や友人で固められていることがほとんどで、第三者のチェックが及ぶ体制にはなっていない。株式や社債など不特定多数からの出資を受けることもなく、銀行も病院経営には口出ししにくいため、債権者からのチェックも甘くなりがちである。町の名士である病院に口出しできる人は少ないのである。

 経営者(理事)の経営に対する無頓着さも問題である。医療事務の全てを事務局に任せっぱなしで、決算書など全く目も通さないような理事が非常に多い。院長出金名目で資金繰りを無視した出金がなされる。この院長出金は事務局による横領などの不正の温床にもなりがちである。院長出金が聖域化してしまい、院長又は事務長など一部の者にしかチェックが働かない仕組みなってしまっているのである。そのような仕組みの元で、院長が会計に無頓着だとどうなるかは推して知るべしである。

■ステークホルダーの多様化

 このようなガバナンスに対する制度及び意識の立ち後れと裏腹に、医療機関を巡る利害関係人は多様化の一途をたどっている。様々な医療機関向けの投資家が暗躍しており、法律の枠外で医療機関の経営を左右している実態がある。病院M&Aの件数も増大しており、名門病院が買収される事件も相次いでいる。

 前述したが健康保険制度を通じて国民全体も医療機関の利害関係人である。患者だってステークホルダーと位置づけることもできる。医療機関の経営者は、もはや「自分の病院」という意識のみでは経営できないことに思いを致すべきであろう。

 様々な投資ファンドや金融機関の関与が強まっている実態を見ると、今の医療法人の制度設計では、早晩、利害関係人と医療経営者の抜き差しならない対立関係が事件を勃発させる事態が生ずるものと思われる。透明性が高く、開かれた病院経営を実現できる法律上の制度設計が期待されるところである。

--- 平岡 敦 (弁護士)
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