先見創意の会 (株)日本医療総合研究所 経営相談
MENU
 
コラム
今週のテーマ
(掲載日 2010.05.25)

 社団医療法人の社員が退社する際、出資持分の払い戻し(出資持分返還請求権)が認められているが、その際の払い戻し額をいくらとすべきかについては、過去、いくつかの解釈や裁判等による争いがある。

 この点について、最高裁判所は、4月8日に一定の見解を示した。

 今回は、出資持分の払い戻し額について、考えてみたい。

■最高裁の判断

 最高裁は4月8日、相続等により医療法人の出資持分を相続した者と医療法人との間で争われていた出資持分の払い戻し額について、一定の見解を示した。

 最高裁は、次のような見解を示し、原審の判決の一部を差し戻した。「医療法人を退社した社員は出資額に応じて返還を請求できるという定款の規定は、退社する際の医療法人の財産の評価額に出資割合を乗じた額を請求することができる」との見解を示したのである。

■争いの概要

 本件は、相続等によって出資持分を取得した者(上告人)が、医療法人(被上告人)に対して行った出資金返還請求に伴い争われた案件である。具体的には、出資持分の返還請求(退社に伴う払い戻し)を行った上告人に対して、いくら払い戻しすべきかが争われた。

■定款の定め

 出資金の払い戻しについて、医療法人の定款では、「退社した社員はその出資額に応じて返還を請求することができる」と定められていた。ポイントは、定款条文の「出資額に応じて」をどのように解釈すべきかである。

■原審の判断

 医療法人の財産の評価額に出資割合を乗じた額を請求することができるという最高裁の見解に対して、原審では医療法人の退社に伴う払い戻し額の考え方については、異なる見解が示されていた。

 原審では、社員に対して(出資者に対して)医療法人が払い戻す額は、医療法人が存続するものとした場合と医療法人が解散するものとした場合に区別して考えるべきであるとしている。 その上で、医療法人が存続するものと場合に行われる払い戻し(すなわち、社員が退社する際に行われる払い戻し。本件のケース)は、出資額を限度とすべきであると判断した。

 判断の理由として挙げられているのが、医療法で定める剰余金の配当禁止規定である。医療法で剰余金の配当を禁止しているのは、剰余金が生じても医療法人がこれをそのまま保有することを想定しているものであり、医療法人が存続することを前提とした場合、社員の退社に伴う払い戻し金額は、剰余金を含まない、すなわち、出資額を限度とすべきであるとした。

■課税上の取扱い

 上述のとおり、最高裁はこの原審の判断を差し戻した。最高裁の判決では、出資持分の定めのある医療法人の退社社員の出資持分返還請求権は、「課税上の取扱いを含む行政実務と裁判例を通じて示されてきた」と述べている。さらに、それは「社員が退社した際の退社時の財産評価額に対する出資割合に応じた請求権を意味する」とし、税務の取扱いもその理由に挙げている。

 税務の取扱いのひとつに出資額限度法人の取扱いもあると思われる。定款を変えることで出資額限度法人にすることは可能であるが、税務は出資持分の評価額について、出資額限度法人であっても、通常の評価額で評価することを原則としている。つまり、医療法人の出資持分に対する税務の姿勢は「時価評価」なのである。今回の最高裁の判断は、そういった税務の考え方も支持している点で興味深い。

■まとめ

 その一方で、これまでのコラムでも散々議論してきたように、医療法人の事業承継に対する税の手当ては実に心許ない。

 今回のような争いは、医療法人の経営者(理事長)が世代交代期に入った状況を考えると、今後益々増えていくであろうと思われる。 税務は「時価評価」という前提に立って、少なくとも一般事業会社並みの事業承継税制の検討が待たれる。

--- 鈴木克己 (税理士)
javascriptの使用をonにしてリロードしてください。
コラムニスト一覧
(C)2005-2006 shin-senken-soui no kai all rights reserved.