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(掲載日 2010.08.17) |
情けない話だ。国内外で「長寿大国」をPRしていながら、100歳以上の長寿者の所在が分からなくなっているという。それも一人や二人ではない。
「全国で3000人以上?」と憶測するメディアもあり、隣国メディアに「日本ではミイラも年金受給者」などと皮肉られる始末。この際、「長寿大国」なんて言葉、みっともないから使用禁止にしたらどうか。
■やる気があるのか
騒ぎの発端は、東京都足立区で住民基本台帳(住基台帳)上、生きている111歳の男性がミイラ化した遺体で発見されたこと。約30年前に死亡したとみられているが、最近まで家族に遺族共済年金(以前は老齢福祉年金)が支払われていた。「100歳」「ミイラ」「年金」…。一見、無関係と思える言葉が並び、サスペンスドラマを彷彿させる。夏枯れ気味のマスコミが飛びつかないはずがない。
どうして、こんな事態が起きるのか。素人でも分かることは、住基台帳を管理する市区町村のいいかげんさ。「原則として本人または家族など代理人から申請がなければ、削除できない」(総務省)と説明するが、法的には、事実を確認して職権で削除できる。
周辺住民から寄せられた情報をもとに現地調査したところ、住民票の住所地が公園になっていたという事例があったという。所在確認は市区町村の仕事であり、要は、やる気があるかどうかだ。
住基台帳は、住民票の交付を通じて医療、介護、年金、福祉など行政サービスに使われるだけではない。パスポートや運転免許証、納税などの本人確認などにも使われている。肝心な記載事項が事実と違うのでは話にならない。
■面会を義務付けたら
もう一つの大きな原因は、個人情報保護という、やっかいな“厚い壁”の存在だ。児童や高齢者に対する虐待でも、行政機関が壁を突破して個人宅に立ち入ることは簡単ではない。
児童虐待の場合、法改正で児童相談所(児相)職員が警察立ち会いの下で家の鍵を開けて被害児童を救出することができるようになったが、実行件数はさほど多くない。通報を受けながら、児童を救出できず、虐待死させてしまうケースが跡を絶たない。
厚生労働省は「職員が加害家族のプライバシーを意識するあまり、消極的になってしまうようだ」と説明している。もっともプライバシーを逆手にとって何もしようとしない児相の体質を批判する声もあるが…。
厚労省は、100歳以上の年金受給者に生存を確認する「現況申告書」の提出を求める一方、所在が確認されている場合でも虚偽申告を防ぐため日本年金機構職員に本人との面談を指示した。支給の一時差し止めや返納も辞さない構えだが、後手後手の感は否めない。
高齢者の所在確認をする場合、虐待問題と同様、プライバシーに配慮しつつ、本人との面会を法的に義務付けられないものだろうか。本来、個人情報保護は情報開示制度と一対で考えるべきだ。どちらかが、行き過ぎれば、今回のような弊害が生じる。
× × ×
行政に対する不満や不信は、今に始まったことではないが、多くの高齢者が所在不明となっている事実は、支え合う家族や地域の崩壊を証明しているようで、切なく、悲しい。
一方、「経済大国だ」「健康大国だ」などと浮かれている間に、国も国民もどんどん壊れていくようで、怖い。
--- 楢原多計志(共同通信社 客員論説委員)
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