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テーマ  改正薬事法の全面施行は保険給付外しへの布石か
投稿者  医療法人 新さっぽろ脳神経外科病院 理事長 中川俊男
 昨年改正された薬事法が今年4月から全面施行される。改正の内容は大まかに言えば、医療用医薬品の分類方法が、従来の「要指示医薬品」と「要指示医薬品以外」から、「処方せん医薬品」と「処方せん医薬品以外(通称:非処方せん薬))」に変更されるということである。

 しかし、詳細については、薬業界のメディアを除いてあまり報道されていない。私は、この改正が将来的に、医薬品の「保険給付外し」につながるのではないかと危惧している。この改正をめぐる問題点が注視され、広く議論されるためにも、改正の経緯と内容、そしてどういったことが懸念されるかについて、私の見解を述べようと思う。(>> 参考資料へ

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 まずは、分類の仕方をみてみよう。「処方せん医薬品」には、従来の「要指示医薬品」(血糖降下剤、抗悪性腫瘍剤、ホルモン剤など700成分)に加え、注射薬、麻薬製剤、血液製剤、向精神薬、覚せい剤原料・特定生物由来製品など多くの「要指示医薬品以外」の医薬品も移行する。「処方せん医薬品」とは、文字通り、処方せんがなければ販売することはできず、規定に違反したものは、3年以下の懲役か300万円以下の罰金が科せられる医薬品のことだ。

 一方、「処方せん医薬品以外」は、医師が処方すれば従来と同じく保険給付されるが、処方せんがなくても自費で購入可能となる。「処方せん医薬品以外」には、年間の診療報酬請求額(薬価ベース)が900億円に相当する漢方薬、パップ剤、ビタミン剤、抗ヒスタミン剤やエパディールなど抗高脂血症剤などが含まれる。

 実は、以上の分類は、厚生労働省の当初の構想とは大きく違っている。厚生労働省の当初の案では、現在、「要指示医薬品以外」と指定される、ほとんどの医薬品が「処方せん医薬品以外」に移行することになっていた。しかし、これに対して、医薬品業界からの猛反発があり、厚生労働省は、対応措置として、大手の主力品目のほとんどを「処方せん医薬品」の分類に滑り込ませる形で決着させたのである。結果、「要指示医薬品以外」指定の医薬品のうち、3割の医薬品だけが「処方せん医薬品以外」に移行することになった。

 これ自体は、従来の「要指示医薬品」の範囲が「処方せん医薬品」として広がるというだけで、日常診療における安全性が高まるという見方もできるだろう。しかし、メーカーはなぜ、ほとんどの主力品目の「処方せん医薬品」への移行を求めたのだろうか。

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 「処方せん医薬品以外」を「処方せんなし、全額自費での購入と医療機関を受診せずに済む」という利便性に重ね合わせて考えてみよう。患者なら、「再診料+3割負担」の自己負担額を負わされるより、処方せんなしで薬品を購入するほうへ流れていくのが自然ではないか。処方せんなしで、非処方せん薬を購入する場合は、全額自費での購入になるので、それほど増えない、との見方もある。しかし、安価な薬やパップ剤なら、患者はむしろ、再診せずにまっすぐ薬局に向かうと考える方が自然である。

 薬局側についても同様のことが言える。厚生労働省は、「処方せん医薬品以外」について、処方せんがなければ販売しないようにとの行政指導を行うとしている。しかし、通知による行政指導に罰則やペナルティーがない限りは、薬局に販売自粛のインセンティブなど働かないだろう。結果として、患者が処方せんなしで薬品を購入するためのハードルが低くなるだけである。

 私が懸念するのは、全額自費で購入する患者が増えれば、厚生労働省が「処方せん医薬品以外」を薬価収載から外し、同時に保険給付も外す理由付けを与えることになるのではないか、ということだ。メーカーが反発したのは、「処方せん医薬品以外」が意味するものを、いち早く嗅ぎ取ったからではないか。

 全国の医師会が混合診療解禁反対の運動に全ての精力を傾注している間に、巧妙に保険給付範囲を縮小するための基盤整備が着々と進められているのだとしたら、由々しき問題である。さらに、医療機関が、将来的に「処方せん医薬品以外」に転籍されそうな医薬品を敬遠し、一流ブランド薬を採用する傾向を加速したら、どうなるだろうか。薬剤費は増加の一途を辿るしかない。

 以上、ざっとではあるが、私なりの見解を述べさせていただいた。今後の議論の一助になれば、幸いである。

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