米医療政策・研究学会アカデミーヘルスが7月にイタリアで開いた国外政策フォーラムでは、米、英、カナダ、インド、中国、フィリピンなどから有識者や政策関係者などが集まり、看護師の不足を解消するための国際共同戦略案を提示した。戦略案には、国ごとの看護師需要を測る国際指標の設置や、看護師の職業に関連した情報ネットワーク構築などが含まれる。
看護師不足は、開発途上国のみならず、カナダや英国、オーストラリアでも問題化している。米国への流出が進んでいるためだが、その米国でも看護師不足は今後さらに進むと予想されている。このままでは、「医療を提供するうえで重要な役割を担う看護師が不足し、医療の質の低下につながる」として、フォーラムでは、国際的な協力体制を構築する必要があるとの認識で一致した。
国際的な共同戦略としてフォーラムが提案したのは、(1)看護師の全人口比率や国外への流出(または国外からの流入)人数、対応しなければならない疾患の規模・重軽度等に基づいて、看護師をどの程度増強する必要があるのか、また、国際的な支援の必要性の有無等を測る国際指標「Global Health and Nursing Equity Index」の設置、(2)看護師の仕事内容に関する国際的な情報交換ネットワーク構築、(3)看護師の地位向上に向けた努力――の3点。
アカデミーヘルスによれば、米国の看護師人口に占める外国籍看護師の割合はすでに12%に達している。しかし、米国では、2020年までに、さらに80万人の看護師を増強する必要があると予想され、米医療機関が看護師の人材を国外に求める傾向はさらに強まる可能性が高い。
米国にいる外国籍医師・看護師の3割はカナダ、英国、オーストラリア出身。残る7割は英語圏のアフリカ諸国、カリブ諸島周辺国、東南アジア諸国などの開発途上国の出身だ。先進国である英国などでは、別の国から看護師を採用することで補填しているが、同様の対応をできない開発途上国にとって看護師不足はさらに深刻な問題だ。
例えば、アフリカのサハラ砂漠周辺国では、世界医療機関(WHO)が人口10万に対して最低限必要としている10分の1(50人)の看護師、4分の1(5人)の医師しかいないという。エイズ禍による医療の需要ひっ迫もあり、この地域における看護師・医師の人材流出問題は喫緊に対応しなければならない問題と化している。
一方、インド、中国、フィリピンについても、国外からの送金というメリットはあるものの、流出の規模が現在の水準を超えれば看護師不足問題が表面化するという。
アカデミーヘルスは2006年2月にも引き続き政策関係者を集めたフォーラムをワシントンで開き、看護師不足解消のための具体策や、各国別の対応について話し合う予定。
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