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海外トピックス
 英科学専門誌「Nature」および全米科学振興協会(AAAS)のオンラインニュースサービスなどから抜粋した記事、プレスリリースの要約記事を掲載しています。

掲載日: 2005.08.19
睡眠中の高齢者の死亡――呼吸神経の消失も原因
 米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)神経生物学部のジャック・フェルドマン教授の研究チームは、睡眠時の高齢者の死因のひとつに、呼吸を調整する脳細胞の消失も考えられる、とする研究論文を発表した。睡眠時無呼吸症候群は、気道の閉塞で起きるが、この場合は、脳幹にある呼吸神経「preBotzinger complex (preBotC)」の細胞の消失が年を取るにつれて徐々に進み、睡眠中の呼吸停止を引き起こすのだという。

 フェルドマン教授らは実験で、ネズミのpreBotCニューロンを半分以上損壊させ、その影響を調べた。ネズミは初め、寝起きに呼吸困難を起こすようになり、4〜5日後にはレム睡眠に入ると同時に完全な無呼吸状態に陥るようになったという。レム睡眠で無呼吸状態になったネズミは、起こされるまで呼吸を再開することはなかった。その後、レム睡眠時だけでなく、ノンレム睡眠や起きている時にも呼吸が一時的に停止するようになった。

 寝起きに息苦しくなるのは「人間の高齢者にもよくみられる現象」(同教授)である。フェルドマン教授は今回ネズミに起きた状態が「同じ哺乳類である人間にも当てはまる可能性がある」と指摘している。

 高齢者が健康上の問題がないのに睡眠中に死亡した場合、死因は心不全などとされることが多い。フェルドマン教授らは、「高齢者はもともと心肺が弱っており、全てのケースが心不全が原因とはいえない。呼吸不全を起こして死亡したケースもあると考えられる」と述べた。

 パーキンソン病や、ゲーリック病(筋萎縮性側索硬化症、ALS)などの疾患の患者も睡眠中に呼吸困難を起こすことがある。フェルドマン教授らは、これについても同様に、preBotC神経の消失によるものである可能性があるとみている。
First released 7 August 2005 @
高齢者の運動能力と遺伝子の関連性
 米フロリダ大学高齢化研究所のマルコ・パホール博士らの研究チームは、70〜79歳の高齢者3000人を対象に、高齢者の運動能力と遺伝子の関連性についての調査結果を報告した。4年にわたり、運動量と遺伝子、運動能力の関連性について調べたところ、同じ運動量を心がけている人同士でも、アンギオテンシン変換酵素(Angiotensin converting enzyme、ACE)の遺伝子型の違いによって、数年後に維持できる運動能力に大きな格差が生じることが分かったという。

 調査では、まず全員の階段の上りや歩行の能力、普段の運動量などをチェックし、2年後と4年後に運動能力をどのぐらい維持しているかを調べた。

 その結果、普段から積極的に体を動かしている人は、あまり体を動かしていない人よりも運動能力を維持していることが確認された。しかし、同じように体を動かしている人でもACEの遺伝子型がDDやID型の人よりもU型のほうが運動能力に何らかの問題がみられるケースが45%多かったという。

 さらに、ウエートトレーニング(筋力トレーニング)を行っている人(全調査対象の8%)が4年後に運動能力をどのぐらい維持したかも比べた。ウエートトレーニングをしているDD、ID型の人は調査対象の中で運動能力の衰えがもっとも目立たなかったのに対し、U型の人は運動をしていない人と同じぐらい運動能力が落ちていたという。

 研究チームは、ACEのU型の遺伝子を持つ人の体脂肪量がDD、ID型の人よりも多かった点にも着目した。「U型の人は足の筋肉に脂肪がつく傾向にあることが観察された。耐久運動をする若いスポーツマンなら、筋肉周辺に蓄えられた脂肪は有益だろうが、高齢者の場合は筋肉の機能低下や糖尿病など代謝に関係する疾患につながる可能性がある」(米ウエイク・フォレスト大学医学部のキリチェヴスキー教授)としている。

 パホール教授は、これらの調査結果から、「遺伝子の型によって身体的特徴が異なり、加齢に伴う運動能力の衰えのスピードに違いが出てくるということなのかもしれない」との見方を示した。
First released 10 August @
アルコール依存症と遺伝子の関連性
 人間のアルコール依存症は、飲酒を繰り返すうちに、アルコールに対する耐性ができ、摂取量がさらに増える、という悪循環でなる場合が多い。米カリフォルニア大学の研究チームは、キイロショウジョウバエに2度連続してアルコールの一種であるエタノールを吸引させ、エタノール耐性の発達に関わるとされる遺伝子の有無が、どのぐらい耐性能力に差をもたらすかを比べた。

 耐性能力を比べたのは、「Hangover(“二日酔い”の意)」と呼ばれる遺伝子を持つキイロショウジョウバエと、持たないキイロショウジョウバエ。実験ではそれぞれを上下に複数の仕切りで区切った円柱型容器の上層部に入れ、エタノール・ガスを注入。エタノールを吸引したハエがバランスを失い、容器の底に落ちるまでの時間を確認したうえで、4時間後に同じハエに同様の実験を繰り返した。

 2度目のエタノール吸引で容器の底に落ちるまでの時間が1度目よりどのぐらい延びたかを比べたところ、Hangover遺伝子を持つハエのほうが、持たないハエよりも、2度目の吸引で底に落ちるまでの時間がかかったという。

  この結果を受けて、同チームでは、人間の場合もHangover遺伝子に類似した遺伝子があり、アルコール依存症になるかならないかのカギを握っているのではないかとの見方を強めた、としている。また、この遺伝子を持つハエのほうが高温などのストレスに対する耐性があり、寿命も長かったという。
Published online 10 August 2005 @
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