米政府が11月15日に加入受付を開始した65歳以上の高齢者向け処方箋薬代給付制度「メディケア・パートD」を巡り、混乱が懸念されている。給付プランの選択肢が多岐にわたり、内容も複雑で高齢者に理解しにくいことや、給付基準に不備があるとの指摘もあるためだ。加入は任意だが、受付期限を過ぎた加入者には割増金が課されることに対する不満も出ているという。このため、期限延期を求める声もあり、スムーズな導入というわけにはいかなそうだ。
同制度は、2003年に成立したメディケア制度改革法(Medicare Prescription Drug Improvement and Modernization Act of 2003)に基づき、年明けから実施される。加入受付の締め切りは2006年5月半ば。パートDは、処方箋薬代の保険適用範囲の拡大や、民間医療保険会社の参入で需給プランの選択幅を広げることなどを通じて、受給者のコスト意識を高め、結果として医療保険の財政支出抑制につなげようとするものだ。
米イリノイ大学法学部のリチャード・L・キャプラン教授によれば、受給者は複数の保険会社が提示する40種類にも及ぶプランから選ばなければならないという。月間保険料も9.48ドル〜67.88ドルと幅があり、「比較計算のために、パソコンまで持ち出さなければならないだろう」という。
同教授は、給付基準にも問題があると指摘する。同制度では、250ドルまでは全額加入者負担、251〜2250ドルまでは国が75%負担、3601〜5100ドルは95%の負担だが、2251〜3600ドルについては、全額加入者負担となっているためだ。全額自己負担を避けるために、雇用主が負担する退職者向けの処方箋薬代給付プランに入っている人もいるが、そのプラン自体が国の補助金を得ているというケースも多く、公費負担面での矛盾がある。また、企業が「給付対象の上限5,000ドルを設定するプランに変えないという補償もない」ので、必ずしもセーフティーネットにはならないという。
また、「処方箋代薬が値上がりしたり、自分が必要とする処方箋薬がプランから除外されることが将来ないとも言えない」(キャプラン教授)。キャプラン教授は、これらのことから「加入者は混乱と不安感の中で、自分にあったプランを探し出さなければならないだろう」と述べた。
AP通信が11月10日報じたところによると、ハーバード大学医学部のアンケート調査では、同制度について、全体の7割近くがなんらかの不透明感を感じていることを示す結果(「評価していない」が37%、「制度の内容を良く知らないのでなんともいえない」が31%)となったという。
キャプラン教授の論文「メディケア医薬品給付:混乱の処方箋薬(「The Medicare Drug Benefit: A Prescription for Confusion)」は、11月中に高齢者専門国立弁護士学会(National Academy of Elder Law Attorneys)が出版する「NAELAジャーナル」に掲載される。
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