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海外トピックス
英科学専門誌「Nature」および全米科学振興協会(AAAS)のオンラインニュースサービスなどから抜粋した記事、プレスリリースの要約記事を掲載しています。
掲載日: 2006.02.17
ブッシュ米大統領の一般教書演説から「医療政策」抜粋
 ブッシュ米大統領は1月31日、連邦上下両院合同本会議で一般教書演説を行い、海外でのテロとの戦い、エネルギー政策等に並んで医療政策についての今年の施政方針を示した。2003年に法制化された非課税の健康貯蓄口座(HSA)について、自営業者や失業者などへの普及拡大を推進するための税優遇措置や中小企業向けによる保険掛け金共同負担制度の導入計画を打ち出したほか、転職や退職に伴う変更で受けられる医療保険の内容が不利にならないようにするための措置などについても提案した。

 教書演説の要旨は以下の通り

大統領:

 大統領は一般教書演説の中で、米国の医療を「支払い可能な料金で」「継承しやすい医療保険の下」、「透明性の高い」、「効率的な」ものにするための包括的な政策を提案する。わが国は、世界でも最高レベルの医療施設と医師等の医療関係者に恵まれている。しかし、一方で、国民は、医療費の高騰に加え、転職や対象域外への移転に伴い、今まで自分が加入していた医療保険の継承が不可能になるのではないかとの心配、医療費や医療の質についての情報が不十分でないといったことを憂慮している。

 大統領は、国民が、適切な料金で、質の高い、信頼できる医療を、必要なときにいつでも受けられる、という安心感とともに保証されるべきであると考えている。

 この改革の提案は世界最先端にある米国医療の地位を維持しつつ、医療システムの効率化を図るものである。

 米国民は、一人ひとりのニーズや好みに応じて、どういった医療を受けるかの選択肢と、自分が受ける医療の料金や質について十分な情報を与えられるべきである。そして医療保険は、誰でも支払い可能な掛け金で加入でき、転職や州域外へ移転をした場合でも継承可能なものであるべきである。大統領は米国全土の就労者の家族の安定と安心を確保するため、以下のイニシアティブを通じて米国の医療を改善する方針である」

 イニシアティブは以下の7つの項目に分けられる。

 (1) HSA(健康貯蓄口座)の普及推進
 (2) 医療保険をより継承可能に
 (3) 医療費と医療の質に関する情報開示促進
 (4) 個人事業主、中小企業の医療保険の負担軽減
 (5) 医療事故の説明責任についての改革
 (6) 医療データ電子化の促進
 (7) 弱者支援

 それぞれのイニシアティブについての概要は以下の通り。

 (1)健康貯蓄口座(Health Savings Account、HSA)の普及推進

 HSAは、2003年12月にブッシュ大統領がメディケア処方薬法案の一部として法制化した医療費に用途を限定した優遇税制口座である。予防医療や高額医療費を対象にした免責額(自己負担額)が大きい包括的医療保険を伴う。2004年1月以降、300万以上の米国民が加入した。HSAは、個人及び雇用主双方が支払いやすい掛け金で加入できる健康保険を目指しており、これにより、被雇用者と雇用主が支払う医療費に選択肢の幅と柔軟性をもたせるものである。

 大統領は、このHSAの2010年の目標加入人数を当初の1400万から2100万人に増やす方針。HSAの普及を推進するために、以下2点を提案する。
 
  (1) 個人のHSA購入者は、企業から供給される保険に加入している人と同じ優遇税制が適用される。大統領の提案では、失業中の個人がHSAと互換性のある保険を購入した場合、所得税を控除する。また、HSAの掛け金として支払われた分の給与税は、やはり所得税控除の対象とする。これにより、現在、企業から健康保険を給付されない個人事業主、失業者、健康保険が供給されていない企業の従業員にも公平性を保つことができる。また、失業者、特に早期退職者が個人型HSAを購入する場合もHSA口座を通じて免税となる。
  (2) HSAを通して自己負担で支払う掛け金への課税をなくす。大統領は、HSA口座を持つすべての人々と雇用主が支払う年間の掛け金に対し、現在の法律の許す範囲の金額だけでなく、HSA口座に支払うすべての掛け金を免税とする。これにより、すべての患者の自己負担分の全額が免税措置のあるHSA口座から支払い可能となる。また、今回の提案では、個人のHSA口座の掛け金として支払われた分の給与税を控除するとしている。


 (2)医療保険をより継承可能に

 米国民は転職や移転、個人事業主になった場合、そして退職した場合でも、それまで加入していた健康保険を継承できることとする。米国民は、転職や移転による担当医の変更や新たな医療保険加入に伴う入り組んだ手続き作業、そして、契約変更に伴う税優遇の権利消失や家族が病気になった場合の免責額の増額などの心配に煩わされるべきではない。

 これらの懸念を払拭するため以下の2点を推進する。

  (1) HSAを継承可能に。雇用主は従業員が所有・管理し、移転・転職に伴う継承が可能なHSAを提供できるようになる。掛け金は免税で、転職もしくは退職、移転した時点の健康状態に基づいて増額しない。転職先の雇用主は、従業員がすでに加入しているHSA を継承することができる。雇用主はこれらのプランを継承するかどうか、また、掛け金をいくら払うかを決めることができる。いずれにせよ、掛け金は免税となる。
  (2) 大統領は、在住している州の域外の健康保険の購入を許可する。これにより、米国民は在住している州内外にかかわらず、提供されている全ての健康保険の中から自身の環境に応じて最善の健康保険に加入することができる。他の州で提供されている健康保険を購入できるようになることで、健康保険の選択肢の幅が広がり、競争を促すことができる。

 (3)医療(料金と質)の情報開示促進

 大統領は医療提供者と保険会社に対し、すべての米国民に対し、事前に料金やサービス内容についての情報開示を求める。

 (4)個人事業主、中小企業の被雇用者向け健康保険負担の軽減

 大統領は下院に対し、中小企業による被雇用者向け医療保険の負担軽減を目的に、複数の中小企業が医療保険料を共同負担する制度(Association Health Plans, AHPs)の導入を提案する。中小企業は、数千人の被雇用者向けの保険料をひとまとめに支払うことにより、掛け金を抑えることができ、大企業との間にあった格差を解消することができる。

 (5)医療事故の説明責任についての改革

 大統領は、下院に対し、医療事故をめぐる説明責任制度をより公平で予測可能なものとし、その結果、医療訴訟に関連する無駄な費用の抑制につなげることを提案する。医療訴訟件数が増えた結果、事故を恐れる医師が防衛医療をおこなうあまり、医療費の高騰を招いたり、優秀な医師であっても訴訟のために、業務から離れることを余儀なくされるケースも多い。このことは、国民一人ひとりの受診の妨げになっている。

 改革では、事故にあった患者に対する賠償金の支払いを迅速化するとともに、医療費高騰を抑えるためにも、それほど重大なケースでない限りは、医師に対する訴訟を減らす方針。このために、大統領は一般常識に基づき、行き過ぎていると判断されたケースについては懲罰的損害賠償を控えるほか、事故があってから数年が経過したケースについては訴訟の対象としないこと――などを下院に提案する。

 (6)医療情報の電子化促進

 医療費、医療過誤を抑制し、医療の質を高めるため、医療情報の取り扱いに情報技術(IT)の利用を促進する。

 2004年、大統領は、ほとんどの米国民が利用できる医療データ電子化10カ年計画を打ち出した。すでに電子化が進んでいるのは、退役軍人健康管理団体や民間の医療システムで、医療の質向上とコスト抑制、医療過誤の減少に役立てている。政府は、医療データの電子化促進のために、(1)National Coordinator for Health Information Technologyを設立、(2)電子データの取り扱い基準の統一化等に1億ドルを拠出、(3)電子化に向けた各投資プロジェクトの適正評価規準の設定、(4)個人情報保護に関する問題の提示、(5)インターネットを使った医療情報システムの開発――を手がけている。

 2006年、政府は患者による電子データの利用を拡大するため、全国的な医療情報技術の標準化を推進する。患者が利用できるデータは、患者の同意がある場合のみアクセス可能な個人の医療データや、過去の投薬データ、検査結果など。また、インフルエンザなど感染症の流行拡大を監視するために、これらの医療データを利用する方針。

  (7)弱者支援

低所得の個人及び家族のHSA加入を促進するため、HSAと互換性のある保険の掛け金(年間所得2万5000ドルの4人家族に対し3000ドルの掛け金)を還付可能な税控除の対象とする。
健康保険に未加入の慢性病患者対策を州ベースで強化するため、毎年10州までを対象にこうした患者をカバーするための既存の資金プール制度や新規対策の試験導入等に総額5億ドルを拠出することを提案する。
大統領は、慢性病を抱える被雇用者に対し、雇用主がHSAへの掛け金を増やすことを許可する。現在、雇用主は被雇用者の健康状態に係らず、一律同じ額の掛け金を負担しなければならないことになっているが、今後は慢性病を抱える被雇用者の健康保険の掛け金の増額を許可する。。
大統領は、市民団体や地域、宗教団体にもAHPのシステムを取り入れ、各団体加入者に対する健康保険の掛け金の共同負担を推進する。
貧困層を対象にした医療コミュニティーセンターの増設などに引き続き投資拡大する。
<関連リンク>

一般教書演説「State of the Union: Affordable and Accessible Health Care」原文
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