米タイム誌(2006年7月31日付号)は、治療費を安く抑えるため、インド、タイ、シンガポール、マレーシアの医療機関で治療を受ける米国人の「メディカル・ツーリスト」が急増している、と報じた。美容整形手術のために、これらの国々の医療機関に赴く米国人はこれまでにもあったが、最近では、企業の健康保険給付の対象ではない米国人が、安い費用で緊急ではない治療や手術を受けるために訪れるケースが増えているという。
料金が魅力的なことに加え、米国の大学の医学部出身の医師がいることも米国人の安心感につながっているという。こうしたトレンドを先取りして、米企業の中には、社員の健康保険の選択肢の中に、東南アジアの医療機関での治療を加える動きも出てきた。
タイのバムルンラード病院(バンコク)によれば、昨年、同病院で治療を受けた米国籍の患者は55,000人(うち美容整形目的の患者は17%)と前年比で3割増加したという。そのうち4分の3が米国在住者だった。コンサルタント会社マーサー・ヘルス&ベネフィットによれば、同じ手術でも、タイやマレーシアなら米国の20〜25%、インドなら、さらに安い費用で受けられるだろうとしている。
同誌が掲載した料金比較表によれば、心臓のバイパス手術の場合、米国では、全額自費(最低1泊の入院費を含む)の場合、約12万〜17万ドル強、民間医療保険会社がカバーする場合、約5万〜8万ドルであるのに対して、インド、タイ、シンガポールへのパック旅行費(同)は、米国からの航空運賃、ホテル宿泊費を入れても1万〜2万ドル程度で済むという。
米国人が海外の医療機関を頼る背景には、国内の医療費の高騰と健康保険の給付対象外の労働者が多いことがある。タイム誌によれば、2015年までに米国の医療費がGDP(国内総生産)の5分の1を占める一方で、健康保険の給付対象外の労働者が全体の4分の1に上ると予想されているという。同誌が取材した米国人も健康保険に入っていなかったため、高い治療費を払えず、タイやインドの医療機関に駆け込んだケースだ。
一方で、同誌は、こうしたトレンドが続けば、米国内の医療機関の収益に影響する可能性があるとも指摘している。企業が、安い医療費で済む海外の医療機関での治療を社員の健康保険の選択肢に加える場合が今後、増えるかもしれないからだ。
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