米メリーランド大学の研究グループは、抗アルツハイマー型痴呆剤「ガランタミン」に、化学戦争やテロ攻撃などに使われる神経剤などの有機リン化合物や、家庭や農場で使用される殺虫剤の予防・解毒剤として高い有効性を認めたとする研究報告を発表した。
実験で、ガランタミンを投与した動物に、致死量のソマンまたはサリンといった毒性の非常に高い化学物質をそれぞれ被曝させたところ、動物は発作や呼吸困難、運動障害など通常みられる症状を起こさなかっただけでなく、「あたかも神経剤を浴びなかったように動き回っていた」(アドソン・X・アルブケルク博士)と言う。また、農薬「パラオキソン」を浴びた動物に対しても、ガランタミンに同様の予防効果が認められた。
次に、致死量の「ソマン」または「パラオキソン」をそれぞれ動物に浴びせた後5分以内にガランタミンとアトロピンを併用投与したところ、それらの動物は副作用なしで生存。被曝後の解毒剤としてのガランタミンの効果が確認できたという。
現時点で、米食品医薬品局(FDA)により、化学兵器の解毒剤として承認されているのは「ピリドスチグミン」のみ。しかし、アルブケルク博士によれば、「ピリドスチグミンは血液から脳に十分浸透せず、解毒効果をもたらすことができない。効果をあげるために、 (地下鉄サリン事件の際にも使用された)『アトロピン』や有機化合物『オキシム』、睡眠薬や抗不安剤などに使用される『ベンゾジアゼピン』などと併用しなければならないが、それでも動物実験の結果では、神経剤を浴びて生存したとしても神経疾患などの後遺症が残る」と説明している。
アルブケルク博士は、「実験により、ガランタミンは血液から脳に入り込み、毒物から脳を保護する効果があることが分かった」と強調。今後は、化学兵器を使った戦闘に加わる可能性のある兵士や、農薬を浴びる危険性の高い職業の人々向けにも、実用化に向けた実験や開発を進めることになりそうだ。
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