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医療機器メカトロニクス
病院で何気なく目にする様々な医療機器、その仕組みや原理等を分かりやすく解説します。
(解説者:医師 北村 大也)
第5回 『MRI(核磁気共鳴画像法)』  
連載3 ― 「MRIの原理(その3) ― 核磁気共鳴現象 ― 」
(掲載日: 2007.06.22)
<< 連載2 「MRIの原理(その2) ― 磁力とは何か ― 」

 原子核の磁石の性質を利用して物質の分析を行うのが核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance : NMR)法です。有機化学などの分野で、分子の構造などを定めるために利用されています。

図5 原子核の磁気モーメント 量子論的考え方では、原子核は正(+)の電荷を持ち自転しています。このため原子核はある物理量と方向を持つ磁石と考えられます。図5が核磁気モーメント(核スピン)のイメージです。


 その磁石に外から磁場をかけたらどうなるでしょうか。ある一定の向きを向いている核スピンに対し外部磁場を斜めにかけます。すると核スピンはその磁場の力を受け、磁場の向きを軸としてコマのように回転します。

 棒磁石のモデルで考えると、磁石が自転していない場合、磁場の力を受けた磁石は一定の平面上をメトロノームのように動きます(図6−a)。しかし、磁石が自転している場合は、自転の動きも加わることになりその磁石はコマのように回転します(図6−b)。

ラーモア歳差運動

 この回転運動をラーモア歳差運動(注)、その周波数(回転数)はラーモア周波数と呼ばれています。

 外部磁場をかけた原子核にラジオ波(電磁波の一種)を照射すると、核スピンはエネルギーを吸収し、その後またラジオ波の形で放出していきます。核磁気モーメントは一定の周波数のラジオ波しか吸収(共鳴)しないのでこの現象を「核磁気共鳴現象」と呼びます。また、その共鳴周波数は磁場の強度に比例します。その理論は、ここでは割愛します(量子論的な説明をさらに必要とし、大変難しいため)。

 結論として、この放出されるラジオ波を計測するのが「核磁気共鳴法」です。実際の核磁気共鳴法の検査では、1つの原子核を観測するわけではありませんし、原子もいろいろなほかの原子と結合しています。

 そのため計測の際は、ある特定の周波数のラジオ波を当てるのではなく、観測したい範囲のすべての周波数を含むラジオ波(パルス)を当てます。その後、放出されるラジオ波を検出しますが、この信号を「自由誘導減衰(Free Induction Decay:FID)シグナル」と呼び、その中には様々な周波数の波が含まれていることになります。

 FIDシグナルの中にどの周波数のラジオ波が含まれているかを明らかにするテクニックとして「フーリエ変換」という数学的手法が使用されます。この手法により原子がどんな状態で物質中に含まれているかが判明するわけです。

(注)  歳差運動とは、コマがこける前に軸が傾いて回るときの運動のこと。

<POINT!>
 原子を構成している原子核も、ミクロな磁石と言える。
 核磁気共鳴(NMR)現象は、磁場内における原子核によるラジオ波の吸収(共鳴)・放出のプロセスである。

 さて、次回はいよいよMRIについて説明していきます。

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