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先見創意の会

家族介護の現状と課題 ーその1ー

川越雅弘 埼玉県立大学大学院・研究開発センター 教授

1.はじめに

介護保険制度は、家族等が担ってきた介護を社会全体で支えること、すなわち「介護の社会化の実現」を一つの目的として創設された。確かに、介護保険制度導入により、公的サービスによる支援体制は拡充してきたものの、在宅で介護を受けている高齢者のうち主介護者が親族である者の割合は約7割を占めるなど、未だ家族が大きな役割を担っている状況にあるが、その実態は明らかになっていない。

そこで、本稿では、既存データ(総務省の「社会生活基本調査」、厚生労働省の「国民生活基礎調査」)をもとに家族介護の現状を整理するとともに、家族介護者支援における課題と対策について言及する。1回目の今回は、総務省調査に基づく現状分析結果を紹介する。

2.総務省「社会生活基本調査」の概要

社会生活基本調査は、国民の生活時間の配分や余暇時間における主な活動(①学習・自己啓発・訓練、②ボランティア活動、③スポーツ、④趣味・娯楽、⑤旅行・行楽)を調査し、仕事や家庭生活に費やされる時間、地域活動等への関わりなどの実態を明らかにし、各種行政施策の基礎資料を得ることを目的とした調査で、5年ごとに実施されている。直近の2016年調査では、全国7,320調査区の各12世帯(合計約8万8千世帯)に住んでいる 10 歳以上の世帯員全員約 20 万人に対し調査が実施されている。

2種類の調査票があり、調査票Aでは、①個人属性(性別・年齢・介護の有無と対象など)、②世帯属性(家族類型・世帯人員・介護支援の利用の状況など)、③行動関係(行動の種類・頻度・目的・方法など)が調査されている。

介護に関しては、“ふだん家族の介護をしていますか”という設問が設けられており、介護の実施状況と実施場所で区分された7つの選択肢を選択する形となっている。また、行動の種類として、介護・看護というカテゴリーが設けられており、介護・看護を実施した時間が15分単位で記載され、集計される形となっている。

3.要介護者数/家族介護者数の推移とその特徴(2001~16年)

要介護者数および家族介護者数を2001年と2016年で比較すると、要介護者数は258万人から622万人に、15歳以上の家族介護者数は、470万人から699万人に増加していた(図1)。伸び率を比較すると、要介護者数の2.4倍に対し、家族介護者数は1.5倍と、要介護者数の伸びを下回っていた。

次に、家族介護者数の伸びを性別にみると、男性1.6倍に対し、女性は1.4倍と、男性の介護者数の伸びが女性を上回っていた。また、要介護者1人当たり家族介護者数をみると、2001年の1.82人に対し、2016年は1.12人に減少していた。

4.家族介護者の特性について(2016年)

2016年の家族介護者699万人を性別にみると、「男性」278万人、「女性」421万人と、約6割が女性であった。
これを年齢階級別にみると、男女とも「60代」が最も多く、次いで「50代」「70歳以上」の順であった。また、約1割が「30代以下」であった。(図2)

5.家族介護者による介護・看護時間の推移(1991~2016年)

介護者のうち、調査当日に実際に介護・看護を行った人の平均時間(平日および土日を含む平均時間)をみると、男性では、1991年の2時間29分がほぼ横ばいで推移し、2016年現在で2時間32分となっていた。一方、女性では、1991年の3時間3分がおおむね減少傾向で推移し、2016年現在で2時間28分となっていた。2016年で初めて、男性の介護・看護時間の平均値が女性を上回っていた。(図3)

6.まとめ

総務省の社会生活基礎調査から、
① 2016年時点の家族介護者数は699万人で、うち女性が約6割であった。
② 2001年と2016年の要介護者数と家族介護者数の伸び率を比較すると、家族介護者数の伸び率が要介護者数の伸び率を下回っていた。
③ 要介護者1人当たり家族介護者数をみると、2001年の1.82人に対し、2016年は1.12人に減少していた。
④ 2001年と2016年の家族介護者数の伸び率を性別にみると、男性が女性を上回っていた。
⑤ 2016年の家族介護者の年齢をみると、男女とも「60代」が最も多く、次いで「50代」「70歳以上」の順であった。家族介護者の約半数が「60歳以上」、約1割が「30代以下」であった。
⑥ 2016年の調査日に実際に介護・看護を行っていた人の介護・看護時間の平均値をみると、男性は2時間32分、女性は2時間28分と、男性が女性を上回っていた。また、介護保険制度がスタートする以前の1991年当時と比較すると、男性の介護・看護時間はほぼ横ばいで推移しているのに対し、女性の介護時間は3時間3分から2時間28分に短縮されていた。
などがわかった。

これらの結果から、2000年の介護保険制度創設により介護サービスが普及した結果、①特に、女性の介護時間が短縮された可能性、②1人の要介護者をより少ない人数で介護出来る状況となった可能性が示唆された。

次回は、厚生労働省の国民生活基礎調査をもとに、家族介護の現状をさらに掘り下げることとする。

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川越雅弘(埼玉県立大学大学院 教授)

◇◇川越雅弘氏の掲載済コラム◇◇
◆「地域包括ケア/地域づくりに向けた当大学の取組(2)」【2021年2月23日掲載】
◆「地域包括ケア/地域づくりに向けた当大学の取組(1)」【2020年12月15日掲載】
◆「新型コロナ感染拡大が介護・高齢者支援に及ぼした影響とは(2)」【2020年8月4日掲載】
◆「新型コロナ感染拡大が介護・高齢者支援に及ぼした影響とは(1)」【2020年7月21日掲載】

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2021.06.29